遠くの光にふれるまで





 十月中旬。
 ヒバリも千鳥も、勿論丙さんも、まだ顔を見せない。

 最近若菜さんは、横になっていることが増えた。
 食も大分細くなり、随分痩せてしまった。

 それでも俺たちがいるといつも笑顔で……。正直、そんな若菜さんが少し怖かった。
 死が間近に迫っているのに、笑っていられるなんて。そりゃあ家族のことがあるし、最期まで楽しく過ごすと決めているんだろうけど……。

 俺はまだ「死」というものを受け入れきれていない。今まで身近に「死」がなかったせいだ。
 この先俺が余命を宣告されたら、こんな風に達観し、冷静でいられる自信がない。

 そんな話をしたら、若菜さんは「うーん」と唸ったあとで、こう言った。

「冷静ってわけでも、達観してるわけでもないんだよ。前も言ったけど、生まれるのも死ぬのも一回きりで、予行練習できないから。失敗したらどうしようって怖くなるときもある」

「うん……」

「でも、この先に何があるか知っているから」

「この先?」

「たくさんの天使と出会ったお陰だね。この先六界のどこかに送られて、そこで新しい人生を生きていくって。わたしはもう知ってるよ」

「……そうっすね」

 確かにそうか。人間界での生活は終わるけれど、今度は六界での新しい生活。全てが終わるわけではないのだ。

「……悟り開いてますね」

「開いてないよ。実は欲ばっかり。遊園地にも行きたいし、旅行にも行きたい、ずっと読んでる小説の新刊も読みたい」

「新刊、いつ発売なんすか?」

「来年一月。それまでどうにか生きてなきゃ」

「……生きててくださいよ。そのシリーズが完結するまで」

「だよね。長生きしなきゃ」

 その言葉を聞いたら無性に泣きたくなって、それを覚られないよう顔を背けた。

 最近の俺は、昔より大分涙もろい。