遠くの光にふれるまで





 次の週末、みんなで引っ越し作業をした。
 父ちゃんの友だちのおっちゃんから借りたトラックと、一応春一の車も出してもらったけど、若菜さんの部屋は大分すっきりしていたので、軽トラックだけで済んだ。

 引っ越しまでの間に若菜さんは、冷蔵庫や洗濯機、電子レンジや食器棚、テレビボードの貰い手まで探していて、運び出す大型家具といえばベッドやタンス、デスクや椅子くらいだった。

 若菜さんは物を運び出す作業をしたがったけど「また階段から転げ落ちたらどうするんすか?」と言ったら大人しくなった。


 我が家の一階、玄関を入ってすぐのところにある和室に荷物を運び入れ、少しでも生活感が出るようにとあれこれ並べた。
 でもだいぶ物が少なくなっていた若菜さんの部屋のものを並べても、大して変わらなかった。

 兎にも角にも無事に引っ越し完了。
 そのお祝いにうちでみんなでお疲れ様会。若菜さんと花とあかりがご馳走を作ってくれた。
 そのまま花の提案でお泊まり会。若菜さんの部屋に布団を三組並べて敷き、花、春一、俺の順で横になる。
 ひとりベッドの若菜さんは「見下ろしてごめんね」と言ったけど、さすがに花をベッドに押し込むのは狭くて寝づらいだろうし、若菜さんまで布団に寝てしまうとこっちが狭くなる。だからきっとこの位置がベストだ。


「お泊まり会なんて小学生以来だよー」

 暗くなった部屋で、花がうきうきした声を出す。

「わたしもそうだよ。二十年ぶりくらい」と若菜さん。

「二十年! 俺らが生まれた頃っすね」と俺。

「時代の流れを感じるね」と春一。

「ちょっと若者たち、おばちゃん扱いしないでよね」

「してないっすよ」

「でも正直、どきどきしてます」

「なに、春一、興奮してんの?」

「語弊がある。お泊まり会が初めてだから、緊張してるんだ」

「え、春一くん、そうなの?」

「そういえば春一くん、修学旅行のとき一睡もできなかったって言ってたもんね」

「え、春一、そうなの?」

「うるさいな、オレは一人っ子だから、人と寝るのに慣れていないだけだ」

「わたしも一人っ子だよ」

「わたしもわたしもー」

「なら春一が繊細なだけじゃねえか」

 とても平和な雑談だった。
 なんだか、若菜さんとの別れが迫っているなんて、忘れてしまいそうだった。

 願わくは、こんな平和な時間がずっと続いてほしい、と。

 そう思いながら、目を閉じた。