九月中旬。少し体調が回復した若菜さんと、春一、花、あかりと俺の五人で、市民体育館に向かった。
中学生の剣道大会を観るためだ。
中学生の知り合いもいない、剣道もやったことがない俺たちがどうしてここに来たのかというと、若菜さんが誘われたからだ。
中学校の先生をしている野分さんってひとに「剣道って素敵ですよね、いつか見たいです」と言ったら「今年は優勝狙えるくらい仕上がってるんで、是非観に来てください」とお誘いがあったらしい。
若菜さんが行く、ということは、必然的に俺がおまけで付くわけで。運転手として春一も必要なわけで。俺と春一が行くなら花も付いてくるわけで。そこまで揃えばあかりもついていくと駄々をこねるわけで……。
というわけで、中学生の剣道大会を観に行くことになったのだ。
剣道を生で観るのは初めてで、しかも知ってるやつが誰もいない。楽しめるだろうかと心配だったけど、その迫力にみんなすぐ夢中になって、優勝校が決まる頃にはみんな剣道を始めたくなっていた。
あかりは「中学生になったら絶対剣道部に入る!」と意気込んでいた。
春一も影響されまくり「大学の剣道部、入ってみようかな」と呟いたが、花に「春一くん運動音痴じゃない」とずばり言われていた。
申し訳ないなと思ったことがひとつ。優勝が決まり、野分さんってひとはほっとした表情で観覧席を見上げて若菜さんに手を振ったけれど、若菜さんを囲むように俺たちが座っていたから、明らかに衝撃を受けた顔をしていた。
もしかしたら野分さんは、若菜さんがひとりで来ると思っていたのかもしれない。
もしかしたら野分さんは若菜さんに気があって、このあと飯にでも誘う気だったのかもしれない。
が。付き添いがこれだけいたら、誘えるわけがない。
野分さんには申し訳ないことをしたと思うけど、これは仕方ない。体調を崩すことが増えた若菜さんをひとりにするわけにはいかないのだ。
全日程が終わって、各校が帰り支度を始める頃、若菜さんの元に野分さんがやって来たから、俺たちはちょっと気を使ってふたりだけにさせた。
若菜さんは満面の笑みで野分さんに頭を下げ、野分さんも同じように頭を下げ、何やら話し込んでいた。
程なくして戻って来た若菜さんに「デート誘われた?」と聞くと「デートじゃないけど、夕飯一緒にどうですかって言われた」とのこと。今夜近所の定食屋で一緒に飯を食うらしい。
やっぱり野分さんは若菜さんに気があるんだと確信した。
少し距離を取ったとはいえ、俺たちがいたのに誘うとは。野分さんってひと、無害な草食系に見えて結構やり手らしい。
若菜さんも若菜さんで「デートじゃない」と言い切るとは。危機感がないのか、丙さんがいるから他の男は眼中にないのか。なんにせよ結構罪な人だと思った。



