遠くの光にふれるまで






 俺の気持ちを汲んでくれたのか、それから数日若菜さんは安静にしてくれて、その間俺は部屋に通って、身の回りの世話をした。

 ただしできるのは飯の用意や後片付けやゴミ出しくらい。さすがに着替えや風呂は手伝えない。
 俺が女だったら、と。時間をかけて着替えをする若菜さんに背を向けているとき、心底思った。

 せめて花やあかりが、病気のことを知っていたら……。

「ねえ、若菜さん。病気のこと、まだみんなに話すときじゃないっすか?」

 背後の若菜さんにそう問うと「うーん……」とじっくり悩んだあとで「まだかな」と答える。

「いつ死ぬかはっきり分かっていないし、まだ動けてるしね」

「それはそうなんですけど……」

「もし今話しちゃったら、病人扱いされて、大事にされちゃいそう。ハナちゃんと春一くんは、もう遊んでくれないかも。店長だって、今は普通にごはん食べに行ってくれるけど、告白した当初は大事な宝物を触るみたいに接していたし」

「でも、ひとつだけお願いしてもいいっすか?」

「うん、なに?」

「若菜さんの体調が悪くなったときは、すぐ花たちに話してください。そんで若菜さんさえ良ければ、うちで一緒に暮らしませんか?」

「とうごくんちで?」

「うちは病院だし、いや内科っすけど、とにかく病院で。父ちゃんもあかりも俺もいるし、年末には母ちゃんも帰って来るんで、アパートにひとりでいるより良いんじゃないかなって。俺としても若菜さんが近くにいてくれたほうが安心できますし……。客間が空いてるんで、そこ使ってもらって構わないんで」

「うーん、いいのかなあ、お世話になっちゃって」

「いいですよ。共同生活、楽しそうじゃないっすか?」

「うーん……でもまあ、そうするとアパート引き払うから、随分身軽になるかあ……」

「そっち……?」

「あはは、ごめんごめん。そうだよね、楽しそうだよね。でも本当にいいの?」

「いいんですって。まあ、考えといてください」

「分かった。とうごくん、着替え終わったからもういいよ」

 振り向くと、もういいどころか若菜さんはもうベッドに入り、布団の上でアルバムを開いていた。
 この夏のあれこれの全記録だと言ってもいいアルバムは、数日がかりで作り上げ、今日渡したばかりだ。

 どの写真もみんな楽しそうに写っていて、これを見れば何だってすぐに思い出すことができる。まあ、メンバーがメンバーだから心霊写真も多いが。写り込んだ霊たちも、心なしか楽しそうな表情だった。

 若菜さん曰くのベストショットは、バーベキューをしたとき俺とヒバリが「俺の肉食っただろ!」「知らねえよ!」と口論になり、怒ったヒバリが俺の皿を弾き飛ばしたとき。宙に舞った肉を見上げる俺とヒバリ、肉を開けた口に運びながら驚いた顔で見上げる春一のスリーショットらしい。
 確かに奇跡の瞬間で、春一のこの表情は何度見ても笑えた。

 一緒に遊ぶことはできなかったけれど、少しでも思い出を伝えられればと、丙さんの分のアルバムも作っておいた。これを渡す日は、一体いつ来るのだろうか。