遠くの光にふれるまで





 うちの庭で次々と花火に火をつける若菜さんたちを、縁側に座ってぼんやり眺めていた。
 今日も浴衣着用を義務付けられていたから、みんな浴衣姿。若菜さんは前回同様、黒地に鮮やかな椿の浴衣。
 若菜さんたっての希望で呼んだ雑貨屋の店長と、楽しそうに雑談していた。
 有無を言わさず連れて来られたらしい店長の婚約者は、人見知りしないタイプなのかすぐに打ち解け、今は花やあかりと、花火に火をつけ一頻り騒ぎバケツに入れる、という行為を繰り返していた。

 もう夏も終わる。終わってしまう。
 少し感傷的になりながら若菜さんの様子を見守っていると「辛気臭いな」と呆れたような声と共に、千鳥が隣に腰を下ろした。

「うるせえな、色々あんだよ、人間にも」

「そうか、色々か」

「そう、色々。多感な年頃だしな」

「私にも分かるよ。私も五十年ほど前天使部隊の育成所にいた頃、なかなか配属が決まらなくてな。おまえのように悩んだものだ」

「ああ、そう……」

 天使と人間じゃあ、悩みの種類が全く違う。なんだ五十年前って。俺の父ちゃんも生まれてねえじゃねえか。

「なあ、千鳥」

「なんだ?」

「おまえら天使は、病気にならないんだよな?」

「ああ、基本的に天使の死因は老衰だな。霊力が衰えると死んでしまう。まあ私たちのように天使部隊にいると戦死も有り得るが」

「なら普通の天使になりゃあ、霊力が衰えるまで何百年でも生きていられるんだな……」

 呟くように言うと、千鳥は怪訝な顔でこちらを覗き込み「なんだ燈吾、将来天使になるつもりか?」と問う。

「なれないわけじゃないだろ?」

「まあ最近では修羅界や人界出身の者も増えてきたしな。今期は学院に、地獄界出身者が入学したらしい」

「へえ、地獄に送られても天使になれるんだ?」

「現世で生きていた頃の罪を償いきったり、地獄での行いが素晴らしかったり、しっかり心を改めた者ならな」

「そういうもんか」

「そういうものだ」

 ならいつか向こうへ行ったときにみんな天使になれば、病気で命を落とすことも、大事なひとを病気で失うこともなくなるのか。
 天使部隊を希望しなければ、何十年だって何百年だって、怪我ひとつせず生きていられるのだから。そしたら天使の仕事をしながら、今のようにみんなで一緒に笑っていられるのだから。

 切なくなって若菜さんに目をやると、俺の視線に気づいたのか急に顔を上げて、満面の笑みで手招きする。

 だから俺は千鳥を促し、若菜さんの元に向かった。