気付けば近くに、花たちの姿がなかった。
俺たちの中で一番小さい花や、ひょろっこい春一を見失うのはまだ分かるが、図体のでかいヒバリと、やけに目立つ赤い浴衣を着ている千鳥まで見つけられないなんてどういうことだ。
そうしているうちに最後の一発が上がって、ひと際大きな歓声と拍手が起きた。
若菜さんもつられて拍手して「すごかったね!」と俺を見上げる。
「打ち上げ花火なんて久しぶりに見た」
「そうなんすか? 毎年やってるのに」
「シフトが不規則な雑貨屋店員だったからねえ。退職したからこそだよねえ」
「じゃあ来て良かったっすね」
「ほんとにね」
若菜さんがにっこり笑うのを見て安心した。このひとの余命が少ないことを、一瞬忘れそうになった。
でもすぐ思い出して、気を確かに持った。
忘れてはいけない。このひとは近いうちに死んでしまう。やること全てが、最後になるかもしれない。きっともうこのひとは、見頃を過ぎるひまわりを見に行けない。人生最後のひまわり畑だった。
そういうことが、これからどんどん増えていく。
打ち上げ花火だって、もう一度見ようと思うなら、遠出しなくてはならない。
だから毎回それを肝に銘じて、このひとの顔を曇らせないようにしようと誓った。
「ところで若菜さん、さっきから花たちの姿が見えない。はぐれたみたいっす」
「え……」
誓った瞬間、笑顔が一瞬で凍りついてしまった。
「ど、どうしようとうごくん、みんな心配してるんじゃ……というかハナちゃんと千鳥ちゃんが心配、人混みに流されて怪我でもしたら……ああ、もう、わたし一応最年長なのに、いや、実年齢は多分宿木さんと千鳥ちゃんのが上だけど……とうごくん、探しに行こう!」
「いや若菜さん、あいつらなら大丈夫だから。携帯も持ってるし、合流が難しいようなら俺んち集合って言ってあるから」
「だけど……」
「まあ、そのうち会えるかもしれないから、とりあえず行きましょう」
はぐれないよう若菜さんの腕を掴んで、帰路に着き始めた人混みに身を任せた。
そのまま歩いていると、若菜さんが突然「ちょっと待ってとうごくん」と、ひとつの露店の前で立ち止まった。
そこは雑貨屋のようだった。辺りに並ぶきらびやかな出店の間で、細々と営業している露店。テーブルには、かんざしやくしなど、和風の小物が並んでいる。
その中にあった金魚のガラス細工を覗き込み、若菜さんは感嘆の声をあげる。
あんまり良い顔をしていたから「買ってあげましょうか?」と聞くと、丁重に断られた。
そして頭にタオルを巻いた露店の兄ちゃんに「ひとつください」と言って、巾着から小銭入れを取り出す。
兄ちゃんは「まいど」とぶっきらぼうな挨拶をして、金魚のガラス細工を手際良く赤い和紙に包んだのだった。



