遠くの光にふれるまで








 八月中旬、浴衣を着て祭に行った。
 今日祭に行くというのはずっと前から決まっていたし、ヒバリと千鳥も仕事と鍛錬を休んで来るらしいし、もしかしたら丙さんを連れて来てくれるんじゃないかと期待した。

 でも来たのはヒバリと千鳥だけ。今日もダメだったか……。


 とにかく、丙さんが来ないなら今は祭を楽しむべきだ。

 ヒバリと射的で対決して、春一と金魚すくいで対決して、今度は三人で型抜きで対決した。
 そこではっとした。

 なに俺らだけで楽しんでんだ。若菜さんに一番楽しんでもらわなきゃいけないのに。

 とも思ったが、若菜さんは花と千鳥に連れられて、あっちに行ったりこっちに行ったり。こっちが心配になるくらい走り回っていた。


 黒地に鮮やかな椿の浴衣、椿の髪飾りと三人お揃いで買ったらしい猫の面を身につけた若菜さんは、今までにないくらい大きな口を開けて笑っていた。
 今は三人で水風船をすくっていた。あ、ふたつ取れた。

 若菜さんは嬉しそうに顔を上げ、ちょうど視線の先にいた俺を見つけて「とうごくん!」と笑顔でこちらに走ってくる。

「見て! ふたつ取れた!」

「見てましたよ。良かったっすね」

「ひとつあげるよ」

「どうも。つーかこんな走り回って大丈夫なんすか?」

 水風船を受け取りながら声を潜めると、薬飲んだし大丈夫、とのこと。まあ最近見た中では一番顔色が良いし、それは本当なんだろう。

 ほっとして息を吐くと、急に辺りがざわついて、みんな揃って空を見上げる。
 つられて俺と若菜さんも空を見上げた。

 爆音とともに花火が闇を切り裂いて、夜空を染める。わあと歓声が上がった。

「きれい……」

 若菜さんがそう呟くのが聞こえた。
 ふと見下ろした若菜さんの横顔のほうが、きれいだと思った。というのは、絶対誰にも言わないでおこう。


「若菜さん、はぐれないでくださいね」

 さっきから人通りが多い。背中が押されるし、足も踏まれた。今日は俺たち男どもも浴衣で来ていて、足は勿論下駄だから、何度も痛い思いをした。

 はぐれるな、と言ったはいいが、背が低くて、しかも体調が万全ではない若菜さんがいつ人混みに流されていくか。気が気でない。

 こうなったら苦肉の策。若菜さんの肩を引き寄せ、俺に背中をもたれるように立たせると、驚いたような顔で見上げたけど、でもすぐに半身を預けて寄りかかった。

 しばらくそうやって立ちながら花火を見上げた。