篝火家でのバーベキューのあと、藤宮若菜に会ったことを丙さんに伝えるかどうか迷っていた。
丙さんのことは尊敬している。でも女の健気な姿を見たら、丙さんにちょっと反省してもらって、自分から進んで謝りに行ってほしいと思った。
結局、言わないことに決めた。
加えて丙さんにちょっとした抗議の意味を込めて、ここからは女のことを「若菜」と。名前で呼ぼうと思った。
それからは週に一、二度。時間が空く度人間界に出向いて若菜と会った。
若菜は休暇を終えて仕事に復帰したらしいが、体調はそんなに良くなっていないようだった。
燈吾や花とこっそり、若菜が働く店に行ってみると、客や店員にばれないように胸や腹を擦っていた。
「やっぱり丙さんに会えないのが結構なストレスなのかな」
声を潜めて燈吾が言う。
「若菜さん、可哀想……」
花は泣きそうな声。というかちょっともう泣いていた。
若菜のこんな姿を知らない丙さんは、今日も執務室にこもっているのだろう。
若菜の方から丙さんに会いに行くことは絶対にできないんだから、ふたりの仲を修復するには丙さんがこっちに来るしかないってのに……。
それをあのひとは分かっているのか。
どんな顔して会ったらいいか分からないなんて、そんなのずるいじゃねえか。
次に人間界に行ったとき、若菜は道端にしゃがみ込んでいた。
ただしそれは体調が悪いから、というわけではないらしい。傍には同じようにしゃがんで地面を覗き込むスーツ姿の男女と、真っ白な顔色の青年。
どうやら何かを探しているらしい。
「何かあったのか?」
今日は人間にも姿が見えるようになる薬を飲んでいない。それでも話しかけたのは、そこにいる四人中三人が知った顔だったからだ。
真っ先に顔を上げた若菜は、俺だと分かると笑顔を見せ「こんにちは宿木さん」と挨拶をした。
次いでスーツ姿の男女も顔を上げ、俺を見て驚いた顔。
「それはこっちの台詞だろ。天使部隊の隊士がこんなところで何やってんだ?」スーツ姿の男――藤原さんが言う。
「お疲れ様です、宿木さん!」スーツ姿の女――梅田も。
当然のことながら、スーツのふたりは天使だった。だけど俺とは所属が違う。
ふたりの所属は天使課。毎日人間界に下り、死んでしまった人間の魂を三途の川のほとりに送る。
活動区域は五十に分けられ、彼らは第七分隊、き組の構成員だ。
組長の藤原さんを筆頭に、数名で構成されている。
通常業務は魂の転送だけど、き組はちょっと様子が違う。魂の未練を聞き、解決してやってからの転送。本来未練を解消するのは別の部署――送迎係の仕事だ。それでもこのひとたちは、話を聞くことをやめない。そのため仕事が滞りまくっているらしい。
そして今日もまた、業務外の仕事をしているらしい。
真っ白な顔色の青年が、生前恋人と揃いで買った指輪を無くしてしまったから、それをみんなで探している。
藤原さんが説明すると、真っ白な顔色の青年は申し訳なさそうに笑った。



