次の日出勤したら、店長が「何なのその顔色は! 真っ青じゃない! 今日はいいからすぐに帰って病院行きなさい!」と騒ぎ出した。

 そんなに顔色悪い? ツバキちゃんに聞くと「真っ青というか真っ白ですよ。何か悪いものでも食べました?」と心配そうに言う。
 そんなにファンデーション濃かったかしら。手鏡で見ると、確かに顔が真っ白だった。ファンデーションを塗り過ぎたせいではなく、病弱そうな顔色だった。


 とにかく店から追い出されてしまったから、大人しく家に帰るしかない。


 ゆうべのことは、仕方なかったと思う。
 信じてもらえなかったこともそうだし、ちゃんと話せなかったことも。
 付き合っていると言っても、世のカップルに比べて、ひのえさんとわたしは圧倒的に、会話も対面時間も足りていなかったんだから。

 結局泣きはしなかった。
 ただ、申し訳ないことをしたな、という気持ちでいっぱいだった。



 胸焼けは続いているけれど、そんなにひどいものではないし、真っ直ぐ帰って、ベッドにもぎり込んだ。
 いつも働いている時間にベッドの中にいるというのは、しかも早退してこうしているのは、物凄く罪悪感と違和感があった。
 それにこんな昼日中から眠れるはずがない。
 たとえ今眠れたとしても、夜眠れなくなってしまったら本末転倒。

 そう思ったけれどすぐにうとうとしてきて、夢を見始めた、瞬間。

 ピンポンが鳴って、一気に引き戻された。

 身体を起こして時計を見ると、眠りについたであろう時間からきっかり一時間。

 疲れていたわけではないけれど、一時間の仮眠ですっきりした気がした。

 二度目のピンポンが鳴って、ぐちゃぐちゃの髪を手櫛で整えながら、慌てて玄関に向かう。


「若菜さん大丈夫!? どこか苦しいところは!? 救急車呼びますか!?」

「え、あ、うん……大丈夫」

 ドアの向こうに立っていたのは、尋常じゃないくらいの心配顔をしたハナちゃんと、困った顔のとうごくんだった。

「え、なんでうちの場所知ってるの?」

「うわーん! 若菜さん顔真っ青だもん、つらいよねえ、痛いよねえ、若菜さんにもしものことがあったらどうしよう……!」

「うん、あのねハナちゃん、わたしの話聞いてる?」

「若菜さん、俺から説明しますから」

 わたしに抱きついて泣き始めるハナちゃんを見て、とうごくんが困ったようにそう言った。



 今日は朝から講義だったというハナちゃんととうごくんは、わたしが働く雑貨屋へ行こうという話で盛り上がり、講義のあとすぐに店に行った。

 が。いるはずのわたしの姿はなく、レジにいたかっこかわいい系の店員さん(恐らく店長だろう)に、体調不良で早退したと聞かされた。

 ハナちゃんは尋常じゃないくらい心配して、店員さんに「わたしたちは若菜さんのお友だちなんです、決して怪しい者ではありません、お見舞いに行きたいので住所を教えていただけませんか!」と携帯のアドレス帳や写真を見せながら、涙ながらに詰め寄ったらしい。

 ハナちゃんの涙ながらの主張に感銘を受けたらしい店員さん(ああ、もう店長で決まりだ)は、すぐさまわたしの住所を教え、ハナちゃんととうごくんを送り出した。

 そして今に至る。