遠くの光にふれるまで






 霊力を安定させる訓練は、週に何回か。わたしがお休みだったり早番だったりする日に、とうごくん、ハナちゃん、春一くんがランダムでしてくれていた。
 とうごくんは放任。
 ハナちゃんは褒め上手。
 春一くんはスパルタ。
 そんな飴と鞭の訓練で、少しずつ霊力のコントロールはできている。気がする。

 ひのえさんと一緒にいることでわたしの霊力が高まったのなら、これからも高まっているのだろう。
 だったら、みんなやこの町に迷惑をかけないためにも、できる範囲でいろいろやりたい。天使の皆さんに協力、とまではいかなくても、危険を察知して報告したり、臨機応変に身を隠したりはできると思う。


 店長は、三年付き合っている恋人と仲直りしたらしい。
 記念日はすっぽかされてしまったけれど、代わりに「そんなに不安なんだったら結婚するか」とプロポーズされた、と。にっこにこ、でっれでれの報告があった。

「三年目の浮気とか言うけどあんなの迷信ね、だって今が一番幸せだもの!」

 いや、そもそも記念日どうこう言って合コン企画したのは店長ですよ。思ったけど、それは言わないでおいた。

「おめでとうございます。結婚式には呼んでくださいね」

「もちろん! 余興で歌ってもらうからね!」

「え、歌はちょっと……」

 でも良かった。大丈夫だとは思っていたけれど、引くくらいべろんべろんになっていたし、もし万が一間違いがあったらどうしようかと。本当に抗議と憂さ晴らしで済んだみたいだ。

 式はまだ先になるようだけど、きっと店長、結婚情報誌とか買っちゃうんだ。式場やドレスのパンフレットが愛読書になって、新婚旅行の行き先で可愛い討論になったりするんだ。


「私のことより、若菜ちゃんはどうなのよ。うまくいってるの?」

「どうでしょうか。野分さんに家まで送ってもらったのを見られて、明らかに不機嫌になりましたけど、明日デートです」

「え、え? ちょっと待って、いろいろ詰め込まれてよく分かんない。野分さんと一緒のとこ見られたの?」

 店長はきょろきょろ、ふわふわと視線を動かす。ここまで典型的な動揺を見せられると、ちょっと笑ってしまう。

「突然部屋に来ていたんです」

「それで不機嫌になった、と……」

「心配性なので」

「……」

「……?」

 途端に店長はくしゃりと顔を歪めて、かと思えば凄い勢いで「ごめーん!」と叫んだ。

 バックルームのドアを開け放ったまま話していたので、レジにいたクルミちゃんとお客さんの何人かが、何事かとこちらを向いた。

「それ完全に私のせいじゃない、店長命令とか最終奥義まで使って無理矢理若菜ちゃんを連れて行ったのは私だもの! まさかそこまで心配性だとは思ってなくて……。本当にごめんね」

「いや、いいですって。大丈夫だとは思うので」

 根拠は、あまりないけれど。

「あ、でもデートするんだよね? 仲直りしたってこと?」

「分からないです。終始不機嫌だったので」

「そう……。若菜ちゃん、私にできることがあったら何でも言ってね。上司として、友人として、協力するから」

 じゃあ勤務評価上げてください、とは言えない。
 そして、店長の勤務評価は部長じゃなくてわたしが付けて、部長に渡しているってことも言えない。機密事項だ。

「じゃあひとつアドバイスください」

「うん、なんでも言って!」

「店長って、初デートどこに行きました?」

「は?」

 ひのえさんとのデートの行き先。まだ悩んでいた。