遠くの光にふれるまで






 朝、眠そうな顔のとうごくんに会った。

「夜更かししたんでしょ、若いなあ。わたし最近夜更かしすると次の日きつくてねえ」

 言うととうごくんはじと目でわたしを見下ろす。

「……若菜さんさあ、天使を知ってるって言ったけど、それってもしかして、いやもしかしなくても丙さんでしょ」

「ええっ? なんっ、なんで?」

「ゆうべうちに丙さんが着て、若菜さんとはいつからどういうレベルの知り合いなのか、朝まで尋問されたんすよ」

「……なんか、ごめんなさい……」

 ゆうべということはひのえさん、一度帰ってまた来たということだろうか。そんなに簡単に行き来できるのか? 手続きがどうとか言っていたのに……。


「霊感あるみたいだし、天使のことも知ってたし。てっきりこの辺りを担当してる天使を見たんだと思ってたけど、まさか丙さんと知り合いだとは……」

「うん、偶然ね、いろいろありまして……」

「いや、まあそれは良いんだけど……。若菜さん次いつ時間取れる? 話があるんだけどさ」

「話?」

 頭の中でシフトを思い浮かべて、今週はずっと朝番だったことを思い出す。

「じゃあ今日でも大丈夫かな」

「うん、帰りにとうごくんちに行けばいいの?」

「うん、多分若菜さんが来るまでには俺も帰ってると思うから。じゃあ」

 そう言って、とうごくんは大欠伸をしながら行ってしまった。大丈夫かしら、講義中に居眠りしちゃったら申し訳ないなあ。


 ていうか、話って……。もしやひのえさんのことで説教されるとか? わたしのことでとうごくんの部屋に押しかけたみたいだから、もう一度ちゃんと謝らなくては。



 退勤直後、店長が書類を持ってやってきた。
 健康診断について。書類の冒頭にはそうあって、ああ今年もそんな時期なのかと思う。

 毎年この時期に、社員は健康診断を受けなければならない。社員総出で、というわけではなく、各自休日を利用して、かかりつけの病院で勝手に受ける。かかりつけの病院がないひとは会社指定の総合病院に行くのだけれど、総合病院は混むし時間がかかるから、みんな行きたがらないみたいだ。

 わたしはというと、毎年とうごくんちの篝火医院にお願いしている。
 近所だし、昔から風邪だインフルエンザだ捻挫だ火傷だ、と。何かある度に通っている病院だから安心だ。

 ちょうど今日はとうごくんの家に行くし、ついでに予約をしておこう。

「若菜ちゃんもアラサーで、いよいよ三十路が近付いてきたんだから、いろいろ気をつけてよ?」

 いよいよアラフォーが近付いてきた店長が、ため息まじりで言う。

「主任はずっとメタボって診断されてるし、部長は去年血圧二百を超えてたんだって」

「ええ? 血圧二百って、それ大丈夫なんですか?」

 毎年健康体って結果が出るわたしよりも、主任や部長のほうがよっぽど気をつけたほうがいいと思う。