遠くの光にふれるまで






「まあ、一概に執着や固執が悪いことだとは言わねえよ。それが存在理由や行動理由になることだってある」

 言いながら藤原さんは息を吐いて天井を見上げる。
 まるで、彼自身も何かに執着しているように……。

 梅田さんも、ソリティアに興じていた山口さんも、眠っていたはずのジョンさんも、顔を上げてちらりと藤原さんに視線を向けていた。同情するような視線だった。

 その視線を気にすることもなく、藤原さんは「とりあえず大団円で良かったな」と言って無表情を崩した。

「これは大団円なんでしょうか」

「そりゃあそうだろ。おまえは丙と寄りを戻して同棲予定。宿木は昇格試験に向けて猛勉強中で、東屋は副隊長に昇進予定。現世組だって仕事も私生活も楽しそうじゃねえか。やっと丸く収まって、こっちも安心してるよ」

 その言葉を聞いて「ですね! 仕事中たまに篝火さんたちに会いますが、みんな楽しそうですし!」と梅田さんが同意し、「若菜ちゃんも幸せでしょ? そのネックレス、丙くんからのプレゼントかなー?」山口さんはパソコン画面を見ているのに目敏く首元のネックレスを見つけ出し、ジョンさんは顔を伏せてお昼寝に戻っていった。

「あ! ほんとだ! どうしたんですか、そのネックレス。丙副隊長からの贈り物ですか?」

「ん、まあ、そうなんだけどね」

「へぇぇ、いいなあ、その話も詳しく聞かせてくださいよー」

「え、特に詳しく話せることはないよ」

「いいからいいから。き組は見事なまでに全員独身なんですから、幸せ分けてくださいよ」

 にやにや顔で跳びかかってくる梅田さんを、寸でのところで避けたら、ひのえさんからもらったオレンジの石がついたネックレスが、しゃらりと揺れた。





 き組の事務所を出ると、もう陽が傾き始めていた。

 事務所の窓から手を振る梅田さんと、いつもの無表情で見下ろす藤原さんに挨拶をしたら、ポケットの中の携帯が震えた。
 ひのえさんからのメールだ。

『早めに仕事が終わったから、今日はそっちに行って荷造り手伝う。さっき瀬井に同棲は尚早じゃないかって言われたが、そんなことねえよなあ? 出会って十八年だぞ、遅すぎる』

 内容を確認して、ぷっと噴き出した。

 出会って十八年。わたしたちはようやく前に進んだ。


 遥か遠くにあった光は、今や手を伸ばせば簡単に触れられるくらい近くで輝いている。

 そしてその光は、何十年後も何百年後も、変わらずわたしのそばで輝いてくれるだろう。










(了)