遠くの光にふれるまで





 しっかり夕飯をご馳走になって、帰り際。
 みんな外まで見送りに来てくれて、それぞれ別れの言葉を言う。

 ハナちゃんはまるで今生の別れのように「若菜さんと会えて嬉しかった、本当にありがとう、元気でね」なんて涙ながらに言ったけれど、これからはいつでも遊びに来れるのに。
 とうごくんは苦笑して「またいつでも来てよ」と、春一くんは「今度はひとりで来たほうがいいですね」と視線を動かしながら言う。

 その視線の先には、ひのえさんとの別れを惜しむミキちゃんの姿。
 ひのえさんに抱きついて「またすぐ来てね、次は結婚の話をぐたいてきに進めたいから」なんて言っている。今時の小学生はすごい。

 ひのえさんにたっぷり抱擁されて満足したのか、ミキちゃんはこちらに駆け寄って「ちょっと」と言ってわたしの手を引く。

 みんなから少し離れて立ち止まり、話を聞くためミキちゃんと目の高さを合わせるために中腰になった瞬間。

「ひのえさんの彼女はミキだから。ひのえさんをゆうわくするのはやめてよね。もう四年も付き合ってるし、結婚もするから。あんたがどんな手使っていいよったか知らないけど、ミキとひのえさんの仲をひきさくのはやめて」

 今時の小学生はすごい。こんなドロドロの昼ドラみたいな台詞、どこで覚えてきたんだ。

「まあまあ。ひのえさんを好きになった者同士、仲良くしようよ」

 ね。と言って差し出した手をミキちゃんは思いっきりたたくと、腕組みをして「ふんっ」と顔を背けた。
 この数時間で随分嫌われてしまったみたいだ。

「今度遊びに来るときはシュークリーム持ってくるからね」

「いらなーい!」

 物で釣ってもだめだった。お姉さん悲しい……。





 その帰り道。まるで可愛い姪っ子に骨抜きにされた親戚のおじさんのように、ひのえさんはご機嫌だった。
 どうやらミキちゃんからまたラブレターをもらったようで、その宛名をわたしに見せ「この間まで平仮名だったのに、丙宗志って漢字で書けるようになったんだな」と嬉しそう。

「そういや若菜からの手紙はずっと平仮名だったっけ」

 そのご機嫌な様子を横目に見ていたら、なんだか仕返ししたくなってしまった。
 わたしはミキちゃんに嫌われまくっているというのに。ずっと「あんた」呼びで、若菜の「わ」の字も出なかったというのに。ずるい。

「ラブレターって、もらうとやっぱり嬉しいですよね」

「まーな。気持ちがこもってるからな」

「はい。わたしも卒業前に同期からもらったんですが、わたしが忘れている十六年のあれこれが書いてあって。よく見ててくれたんだなって嬉しくなりました」

「え……?」

「彼も今年から教員になったので、同期として同僚として仲良くしてます。手紙をもらって以降はなんだか壁がなくなって、さらに仲良くなれたので良かったです」

「……」

「気持ちがこもった手紙って素敵なものですね」

「……」

「ミキちゃんからのラブレターに喜ぶひのえさんの気持ちがよく分かります」

 ここまで言うと、突然右手を掴まれて、バランスを崩しながらも立ち止まる。

 振り返って見上げたひのえさんは、眉間に深い皺を寄せていた。