「やんちゃだったとうごくんも、今じゃ二児の父だもんね。先越されちゃった」
「そりゃあ今年三十八だもん。立派なおっさんだよ」
「わたしだって生きてれば四十六歳だよ」
「でも向こうに行ったんだからこっちでの年齢は換算されないだろ? つーか昔より見た目若返ってるし。年下にしか見えない」
「だから頭撫でて子ども扱いしてるのか」
「そうそう。あかりより若い。末の妹って感じ」
さらに頭を撫でられ、頭がぐわんぐわん揺れた。本当に妹扱いだ。
されるがままに撫でられていると「若菜さん」と。とうごくんが静かにわたしの名を呼んだ。
「ねえ、若菜さん。あのとき聞けなかったことがあるんだ」
「うん、なに?」
「俺は若菜さんに、ちゃんと恩返しできたのかな……?」
手を止め、とうごくんは切なげな表情でそう言った。
「そもそも恩を返されるようなことを、わたしはしていないよ」
「若菜さんがそう思っていないだけで、俺は色んなことをしてもらいましたから」
そう言われて考えてみたけれど、わたしは彼に何かしてあげたのだろうか。
むしろ迷惑ばかりかけていた気がする。ひのえさんとのことで迷惑かけたり、霊力のトレーニングをしてくれたり、たくさん遊んでもらったし、最期はわたしを家に置いてくれた。
やっぱり恩を感じるべきはわたしのような気がする。
「……この十八年、ずっと気にしてた。あのとき俺がしっかりしていれば、若菜さんにもっとたくさんの恩を返せたのにって……」
「とうごくん、そんなに気に病まないで」
頭に乗った手はそのままに、わたしも彼の頭を撫でてあげる。
「長い間仲良くしてくれてありがとう。治療は受けないっていうわたしの我が儘を聞いてくれてありがとう。最期まで楽しい思い出をありがとう。それを何にも伝えられないまま逝ってごめんね」
「そんなこと……」
とうごくんの表情が、くしゃりと歪む。
彼も大人になった。お医者さんになって、結婚して、子どももできた。見た目もわたしよりずっと年上になってしまったけれど、わたしの前ではいつまでも可愛い弟なのだ。
頭に置いた手を肩に移動して抱き寄せ、そのまま肩元をぽんぽん撫でてあげる。出会ってから今までの、恩を返すように。
彼が感じていた罪悪を打ち消すように。
そうしていると、少し乱れていたとうごくんの呼吸は落ち着いて、ふうっと深い息を吐く。
「ねえ、若菜さん……」
再びわたしの名を呼ぶとうごくんの声は、もう穏やかで優しかった。
「うん?」
「今、幸せ?」
その質問は、考える余地もなく、はっきり答えることができる。
「幸せだよ」
「そっか……。若菜さん」
「うん?」
「また会えて、本当に嬉しい。会いに来てくれてありがとう」
とうごくんはそう言って、やっぱり穏やかで優しい声で、笑った。



