遠くの光にふれるまで






「俺さあ、わりと女には不自由してなかったんだよ」

 ベッドの中、ひのえさんの胸に顔を埋めていたら、突然そんなことを言われた。

「……別れ話ですか?」

「違うって。まあ聞け。不自由してなかったっていうのは、フリーだって聞きつけるとみんな告白してくるし、まあ断る理由もないし、付き合ってきたんだけどさあ」

 ああ、予想通り。やっぱりおモテになるのね。そりゃあこの容姿で副隊長ってなったら、女の子たちは放っておかないだろうけど。

「でも長続きしなかった。すぐフラれちまうしな。なんか違うって何度言われたことか」

 なんか違うって……どう違ったんだろう。わたしは今まで付き合ったひとのなかで、ひのえさんが一番「合ってる」と思うのに。いろいろな意味で。


「だから、こんなに誰かを好きになって、離れたくないって思えたのは、おまえが初めてなんだよ」

「……それは、どうも……」

「俺の告白を、それはどうもで済ませるなよ」

 なんと答えていいのか分からなかった故の「それはどうも」だったけれど、お気に召さなかったらしい。
 ぎゅううと力いっぱい抱き締められて、息が止まりそうになる。

「じゃあ、なんて答えれば正解だったんですか?」

「そうだなあ、わたしも宗志さんだーいすき、もう離れたくなーい、離さないでー、とか」

「……キャラじゃないです」

「宗志さんもう一回しましょう、でも可」

「ひのえさん元気ですねえ……」

 ていうか仕事の休憩中に来たはずなのに、こんなにゆっくりしちゃっていいのだろうか。

 タイミング良く、ひのえさんの携帯らしきものが鳴って、彼は途端に不機嫌な顔になって、わたしを抱き締めたまま会話を始めた。

 休憩中にやどりぎに捕まって、まだ時間がかかりそうだから、書類は適当に片しとけ。というのがひのえさんの言い訳だった。
 完全にサボっているのに、ここまで堂々としていると清々しく見えてくる。……やどりぎに捕まってってどういうことなのかしら。普通に木の名前なのか、それとも向こうの世界で恋人を表す言葉とか? 人名ってことも考えられる。


「ったく、ちょっと休憩長かったくらいで大騒ぎしやがって」

「休憩中に現世で女とベッドインしているひのえさんが悪いのでは?」

「俺だってすぐ帰るつもりだったけどさ。若菜が可愛すぎるのが悪い」

「よく分かりませんけど……」

「まじでそういう無警戒なとこよくないぞ」

 ひのえさんは呆れたような表情で起き上がり、のそのそと着物を羽織る。

 無警戒と言うけれど、そんなに心配しなくても大丈夫なのに。本当にモテないのだから。
 今度ゆっくり会えたら、わたしがどれだけモテないか、昔の話をしてあげようと思ったけれど、虚しくなりそうだからやめておこう。


「じゃあ、また来る。浮気すんなよ?」

「しませんってば」

 最後にひのえさんはわたしの頬を優しく撫で、天界へと帰って行った。

 今度こそ、次会えるのは一、二週間先のことになりそうだ。