小さな女の子、ミキちゃんは、とうごくんとハナちゃんの娘らしい。確かに目元がとうごくんそっくりだ。
今年生まれたばかりだという下の子は男の子で、こちらはハナちゃん似。
ふたりは八年前に結婚。今とうごくんは篝火医院のお医者さんで、ハナちゃんは看護師としてとうごくんをサポートしているとのこと。
篝火先生は早々に引退して、今は俳句や料理や陶芸の教室に通いながら、孫たちと楽しく暮らしていると笑った。
春一くんは独身で、今年部長に昇進したらしい。しかもかつてわたしが働いていた雑貨屋を経営する会社。昔と変わらず真面目な青年という感じだった。
一番容姿が変わっていたのは、とうごくんの妹のあかりちゃん。当時小学生だったあかりちゃんももう三十歳。中学校の先生をしていて、今年から剣道部の顧問になったらしい。小さかったあかりちゃんも、もうすっかり大人の女性だ。
まさかとうごくんとハナちゃんが結婚しているとは。まさか春一くんがわたしの元勤め先にいるとは。まさかあかりちゃんが先生になって剣道部の顧問をするとは。
今日は連絡していないため来れなかったけど、店長は子どもに「若菜」という名をつけたらしいし、野分さんは病気の子どもたちの支援活動をしていてびっくりするほど子供たちにモテモテらしい。
なるほどひのえさんの言う通り。前情報がないほうが楽しめた。
そんな話をしている間も、ミキちゃんはずっとひのえさんの膝の上にいた。それが気になって気になって、話に集中できない。
わたしだってひのえさんの膝に座ったことがないのに。ずるい。
「若菜さんは、天使になったんですね」
とうごくんが静かに言う。
「ん。ひのえさんと再会してまた一緒にいるためには、それが最善だったから」
「もしかして天使部隊に……?」春一くんが眉根を寄せる。
「ううん。今は学校の先生。天界史を教えてる」
「こいつ武術の成績最低だったみたいで」とひのえさんが恥ずかしいことを暴露するから、仕返しに彼の腕を軽く小突くと、ミキちゃんが「ミキのひのえさんに触らないでよ!」と激怒。嫌われている。お姉さん、悲しい……。
珍しく嫉妬している様子が面白いのか、ひのえさんはミキちゃんをぎゅうっと抱きしめ「この間ラブレターくれたもんなー」なんて甘い声を出す。
「ミキおっきくなったらひのえさんと結婚するんだもん。ラブレターなんて当然だよ!」
「よしよし、可愛いやつめ」
いちゃいちゃするふたりを見つめて目が点になっていたら「こら美輝、あんまり丙さんに迷惑かけないの」とハナちゃん。あの超絶可愛かった美少女がすっかりお母さんの顔だ。
「すみません若菜さん、美輝のやつすっかり丙さんに懐いちゃって」とうごくんもすっかりお父さんの顔。
「いいのいいの、ハナちゃんもとうごくんも気にしないで。お互い様だから」
わたしの言葉にいち早く反応したのはひのえさん。「お互い様?」と眉根を寄せる。
「はい、お互い様ですよ。わたしもラブレターはもらいますし」
「はあっ? いつ? 誰から!?」
「学生時代もそうですし、教員になってこの数ヶ月では生徒から五通もらいました。どれも、卒業したら会えないと思ってたのに教員になって残ってくれて嬉しい、という感じの手紙でした」
「勿論捨てたんだろうな!?」
「捨ててませんよ。全部持っています」
「捨てろよ!」
「じゃあひのえさんはミキちゃんからのラブレターを捨てたんですか?」
「捨ててねえけど……」
「じゃあお互い様です」
「……」
さっきまでの楽しげな顔はどこへやら。口を尖らせむすっとして、膝のミキちゃんを抱え直した。



