遠くの光にふれるまで





「丙さんと、また付き合うのか……?」

「はい」

「仲直り、できたんだな?」

「はい、そもそも喧嘩じゃなかったんですけどね」

「……丙さんもおまえも、幸せになったんだな……?」

「はい、おかげさまで」

「……そうか」

 宿木さんは少し俯いて、もう一度「そうか」と呟く。その表情にさっきまでの陰りはなく、穏やかで優しいものに変わっていた。

 こんな宿木さんの表情を見るのは本当に久しぶりだ。もしかしたら知り合った頃、とうごくんちの庭でバーベキューをして以来かもしれない。

 思い返すとそのときから宿木さんの表情は、少しずつ陰っていったように見えた。
 きっとひのえさんやわたしへの後ろめたさで、徐々にそうなっていったのかもしれない。

 だったらそれはわたしのせいだ。
 男友だちと仲良くし、ひのえさんを不安にさせて会いづらくし、会いたいと強く言わずに黙ってひたすら待っていた、わたしのせい。


「宿木さん、ごめんね」

「……なんでおまえが謝るんだよ」

「宿木さんにつらい想いをさせたのはわたしだから」

「そんなこと、絶対にない。だからおまえは謝るな。ただ丙さんと、幸せになってくれ……」

「幸せにはなります、けど、その前に」

 言いながらさらに一歩二歩と近付いて、そのまま宿木さんの胸に抱きついた。

 ひのえさんとは違う香りと、厚い胸板。

 宿木さんは驚いて、わたしを振りほどこうとするけれど、その前に背中に腕を回してぎゅうっと抱きつき、それを阻止。

「い、たたたた! 宿木さん! 力強いですね!」

 肩を掴んでぐいぐい押していた宿木さんも、痛い、の言葉でやめてくれた。

「……丙さんに怒られるぞ」

 それを気にしているのか、肩を離した手はふわふわと宙をさ迷う。

「大丈夫ですよ。抱き締めてやってくれって言い出したの、ひのえさんですから」

「……心配性の丙さんがよく許したな」

「心配してました。宿木さんのこと」

「……」

「十八年かかったけど、わたしたちはようやく前に進みました。だから宿木さんも、進んでください」

「……わかな、若菜……」

 頭のてっぺんに、ぽたりとしずくが落ちる。
 何度も何度も名前を繰り返す宿木さんの身体と声がぶるぶると震え始め、そしてようやく、わたしの背中に腕が回ったのだった。

「若菜……ありがとう……ありがとう……」

「いいえ。また仲良くしてくださいね」

「……ああ、ああ……」

 ついに声を上げて激しく泣き出した宿木さんの背中を擦りながら、わたしの身体は幸せで溢れていた。
 これからは何もかも上手くいく。そんな気がした。