遠くの光にふれるまで





 次の日の朝、今日は休むと駄々をこねるひのえさんをちゃんと送り出してから、わたしも隊士寮を出た。
 そのまま向かった先は、七番隊舎から少し歩いたところにある八番隊舎。

 来たのはいいけどどうしよう。このまま入っていいものかと悩んでいたら、背後からはっと息を呑む音がした。
 振り返った先にいたのは、目的の人物。
 どうやらようやく、全てが上手く回り始めたらしい。

「ご無沙汰してます、宿木さん」

 目的の人物――宿木さんも、あの頃とは何ら変わりのない姿だった。
 長めの黒髪を後ろでひとつに束ねた、背の高い、つり目でいかつい顔をしている。ただひとつ違っていたのは、その雰囲気。高圧的な印象はなく、どこか自信がないように陰った表情をしていた。

「……どうして、ここに……?」

 宿木さんは恐ろしいものを目の前にしているように表情を硬くし、じっとこちらを見つめていた。

「宿木さんに会いに来たんです。あ、でもお仕事の邪魔をしたらあれなので、今日は挨拶だけできたらなって」

「……」

「中に入っていいものか考えあぐねていたので、会えて良かったです」

「……」

 返事はない。
 わたしはにっこり笑って一歩近付き、宿木さんを見つめる。

 それでも彼は、硬い表情のままだった。


 宿木さんのことは昨日、ひのえさんに聞いていた。
 十八年前、喧嘩のあとなかなかわたしに会いに行かないひのえさんに不満を持ち、わたしと会っていることを隠し、ハナちゃんから託された手紙も渡さずにいた。
 些細な出来心、少しの仕返しや嘘のせいで、ひのえさんとわたしを引き離してしまったと苦悩していたらしい。
 そのせいで自棄を起こし、降格させられ、以来部隊の末端として過ごしている、と。

 そんな状態の宿木さんを案じ、会ってやってくれ、と言い出したのはひのえさんだった。

 元々宿木さんや千鳥ちゃんには挨拶に行くつもりだったけれど、そんな話を聞かされたら一刻も早く会いに来なければならない。お仕事中だろうし、とりあえず挨拶だけだとしても。


「宿木さん、久しぶりに会えたんですから笑ってください」

「……なんで、俺なんかに会いに来た」

 顔を背けながら言った宿木さんの声は掠れていた。

「お友だちに会いに来るのに、大それた理由がいりますか?」

「……友だちなんて、言うな……。俺は、おまえと丙さんを……」

「ひのえさんとは昨日会ってちゃんとお話したので大丈夫ですよ」

「……」

「だから宿木さん、あんまり自分を責めないでください」

 言うと宿木さんは目を見開き、ゆっくりと視線をこちらに向けた。ようやくしっかりと目が合った。