遠くの光にふれるまで





 落ち着いたところで並んで座って、アルバムを見て懐かしいあの夏のことを振り返ったあと。
 彼の後悔のひとつだという色褪せかけた水色の包みを渡された。
 中に入っていたのは、小さくて綺麗なオレンジ色の石がついたネックレス。

 十八年前、わたしの誕生日プレゼントとして買ってくれていたらしい。それをきっかけに現世に来て仲直りしようと考えていたのに、その前に訃報が届いたため、ずっと渡せず仕舞いだった、と。それをようやく渡すことができた、と。ひのえさんは苦笑する。

 早速それを付けると「似合ってるよ」と言われ、なんだか照れくさい。

 それに気付いて「これくらいで照れるな、襲うぞ」なんて。ようやく彼っぽさが戻ってきたようだ。


 こんなごく普通の、恋人たちのありきたりな光景。
 それをどれだけ待ち望んでいたか。

 ひのえさんに渡した手紙の最後に、書けなかったこと。
 一緒にごはんを食べて、今日はこんなことがあったよって他愛のない雑談をして、寄り添って眠って。お休みの日はどこかに出かけて、ちょっと恥ずかしいけど手を繋いだりして。
 そんなありふれた、ごく普通の「恋人」になりたいなって。

 もう何の障害もなく、それができるんだと思うと、嬉しくて仕方ない。



 ただひとつ残念なのは、あの頃ひのえさんが書いていたというカンニングペーパーを、残らず捨ててしまっているということ。
 あの頃のひのえさんの気持ちが、言葉が、もう聞けないということ。

 ただしそれは不器用で意固地な彼が、素直な気持ちを伝えられなかったから用意したもの。それを頼りに伝えるつもりだったけれど、もう謝罪も気持ちを伝えることも済んだから、要らないらしい。
 ひたすらの後悔が、彼を変えたらしい。

 だとしてもカンペという名のラブレターは、少し読んでみたかった。


 じゃあこれからは思ってもいないことを口走ったりせず、意固地にならずに素直に伝えてくださいね。言うとひのえさんは顔を背けながら「ああ」と短い返事をした。
 不思議に思って顔を追いかけると、その目に涙が浮かんでいるのが見えた。


「ひのえさん、年取って涙もろくなりました?」

「……百年近く生きてりゃあ、涙もろくもなるさ」

 わたしよりずっと年上だということは知っていたけれど、まさかそんなに年上だとは……。年齢はこちらの世界に来てからのものだから、人間界でのものは数えない。つまりわたしは今年で十八歳。見た目は若いがかなりの年の差恋愛。これもあの世ならではだ。

 そんなひのえおじいちゃんの肩に寄り添い、わたしよりずっと大きい彼の左手を、両手でしっかり握った。

「たぶん、この恋は本物だと思うんです。昔わたしが感じたビビビは確かにあって、それはまぼろしなんかじゃなくて。だからこそ長い年月を経ても、想いは変わらなかった」

 ひのえさんは背けていた顔をこちらに向けて「そうだな」と頷きながら、わたしの手を引く。
 それに逆らうことなく彼の胸に収まり、目を閉じた。

 会えなかった長い時間を埋めるように、頭上からは何度も何度も「愛してる」の言葉が降ってきた。