遠くの光にふれるまで






 後悔と共に過ごしたひのえさんの十八年の全てを慰めるように、膝立ちをして、彼の頭を包み込みながら抱きしめる。

「ひのえさん、まだわたしのこと、好きだと言ってくれますか?」

 広い背中を見下ろしながら尋ねると、すぐに「当たり前だろ」という鼻声が聞こえた。

「また一緒にいたいって、思ってくれますか?」

「当たり前だ」

「昔男友だちと会ってひのえさんを怒らせたこと、許してくれますか?」

「あれは俺が嫉妬深かっただけ。おまえが気にすることじゃない」

「今日突然訪ねて、迷惑じゃありませんでしたか?」

「嬉しかったよ。俺はまだ、おまえを探しに行けなかったから……」

「ならそんなに自分を責めないでください。こうしてまた会えたんですから。そばにいてください」

 ぴくりと、ひのえさんの背中が動く。
 そして少し身体を動かしたから、わたしも包んでいた彼の頭を解放して、正面に正座する。

 背中を丸めて、目にたっぷり涙を溜めたひのえさんは、困ったような表情でわたしを見上げ、瞬きしながら頷いた。
 その拍子に涙が頬を伝うから、指で拭ってあげて、顔を近付けた。

 ちゅ、と濡れた頬に口づけると、ひのえさんはわたしの腰を引いて、抱き締めてくれる。

 わたしの首元に顔を埋めながら「そんなに甘やかすな」と。やっぱり鼻声の抗議。

「少しくらい説教してくれなきゃ困る」

「説教なんてないですよ」

「あるだろ、なんか」

「そうですねえ……うーん……」

 ひのえさんの背中をぽんぽん撫でながら考える。説教なんて本当にないのに。ずっとわたしを好きでいてくれたことにお礼は言いたいけれど。でも何か言ったことで彼の後悔が少しでも晴れてくれるのなら……。

「強いて言えば……」

「うん?」

「わたしが死んだあと、ひのえさんが早まって閻魔庁に乗り込まなければ、すぐに受験して、十六年で会いに来れたのになーって」

「……それは、ごめん」

「でもわたしの行方を知るためだったんですよね。ありがとうございます」

「おい、それじゃあ説教にならないだろ」

「だってないんですもん」

「嫉妬深すぎるとか、心配性過ぎるとか、情けなさ過ぎるとか」

「じゃあそれで」

「おい」

 ようやくひのえさんの楽しそうな声が聞こえてきて、ほっとして彼のくしゃっとした髪に頬を擦り付けた。

「ひのえさん。ひのえさんはわたしの光でした」

「え?」

「学生時代、勉強や鍛錬でくじけそうなとき、ひのえさんのことを想っていたんですよ。これを乗り切ったら会いに行けるって、何度も言い聞かせて。ここまで頑張って来れたのは、ひのえさんのおかげです」

「そうか……」

 安心したような声で言って、ひのえさんは袂から何かを取り出し、それをわたしに見せた。
 大きな手のひらの上にあったのは、ガラス細工の金魚だった。昔みんなでお祭りに行ったとき、ひのえさんへのお土産にと買っていたもの。
 これも、ちゃんと彼に渡っていたのか。それをちゃんと持っていてくれたなんて。

「おまえこそ、俺の光だ。十八年、消えることがなかった光。悔しくて悲しくて寂しくて、何もかも諦めそうになったときも、おまえからの手紙とこの金魚が道を照らしてくれた」

「ひのえさん……」

 今度はわたしが涙ぐむ番。
 ぐす、と鼻を鳴らしながら俯くと、ひのえさんは大きな手でわたしの頬を撫でてくれた。