遠くの光にふれるまで





 広すぎる部屋と殺風景の理由を話したあと、ひのえさんは重なった段ボールの一番上を持ち出して、わたしの横に置いた。

「なんですか?」

「これは、俺の後悔のすべて」

「後悔?」

 頷きながらひのえさんは、段ボールを開ける。中には色褪せかけた水色の包みと、日に焼けてくたびれた紙の束、そして可愛らしい表紙のアルバムが入っている。
 それを丸ごと取り出して、テーブルの上にどさりと置いた。

「見てもいいんですか?」

「いいよ。元々おまえのだ」

「え?」

 元々わたしのもの。言われて紙束の一枚目を捲る。

『ひのえさん。次いつ会えるか分からないし、会えたとしてもわたしの気持ちをちゃんと伝えられるか分からない。文章のほうが伝わるかもしれないと思ったので、こうして手紙に書いておくことにします』

 その書き出しも文字も、見覚えがあった。当たり前だ。これは十八年前、わたしが書いたものなのだから。

 ぺらぺらと紙束をめくって、懐かしさと共に恥ずかしさがやってくる。
 ひのえさんに宛てに書いた手紙。わたしの気持ちと、ひのえさんがいない日々をどうやって過ごしていたか伝えるためのものだけれど、半分以上が日記。昔の日記を振り返るというのはやっぱりちょっと恥ずかしい。

 なんなら最後の数枚は字が汚くて曲がっていて、相当読みづらい。
 死の間際、最後の力を振り絞って必死に書いたとはいえ、これはひどい。


 こんな日記を、十八年も持っていてくれたなんて。

 所々濡れて渇いたような跡があるし、何度も読み返したようにくたびれている。もしかして、読みながら泣いたのだろうか。


「篝火からこれを受け取ったのは、おまえが死んで十日ほど経った頃だ。こっちに持ち帰って一晩で読んで、ひたすら後悔した。どうしてすぐに会いに行かなかったんだろうって。すぐに会いに行けば、最期まで一緒にいられただろうって……」

「ひのえさん……」

 顔に後悔の色を浮かべながら、ひのえさんは深々を頭を下げる。

「俺のつまんねえ嫉妬で傷つけてごめん。おまえのことが好きで好きで堪らなくて、誰かに取られちまうんじゃないかって勝手に不安になって、思ってもないこと散々言った。ほんと……ごめん」

「ひのえさん、頭を上げてください。わたしは何にも気にしていませんから」

「ああ。手紙にも俺を責めるようなことは一切書いてなかった。ただひたすら俺を愛していると伝えてくれて……。一言くらい、俺が嫌いだと書いてくれればどんなに良かったか……」

「だってひのえさんを嫌ったことなんてないですもん。嘘は書けませんよ」

 だから顔を上げてください、と肩を撫でる。その肩が、また微かに震えていた。

 この十八年間、ずっと自分を責め続けていたのだろう。後悔し続けていたのだろう。
 わたしの気持ちは、手紙だけじゃ伝わらなかったみたいだ。
 普段手紙も日記も書いていなかったから、上手く書けなかったことが悔しい。ちゃんと伝えられていれば、このひとをこんなに悩ませなかっただろうに。