そのあとすぐに春一くんが大量のタコを持って来て、妹のあかりちゃんも交えてたこ焼きパーティーをして、余ったタコをいただいて、スーパーで買い物をしてから家に帰った。
このタコをどうしてくれようかと考えながらリビングの扉を開けると、不機嫌そうな声の「おかえり」が聞こえて飛び跳ねる。
「ひ、ひのえさん?」
次に会えるのは大分先だと思っていたのに、なぜこんなに早く?
「今日仕事休みって言ってたから、休憩時間使って来たのに、どこ行ってたんだよ」
それでわざわざ? 嬉しいやら申し訳ないやらで、変な表情になりながら「ごめんなさい」を言う。
今日は袴姿。人間には見えない、天使としての姿だ。傍らに立てかけてある刀がちょっと恐い。普通では有り得ない光景だ。
ひのえさんは立ち上がって、答えろよ、とわたしに詰め寄る。
多分行き先を聞きたいのではなく、ただ単にわたしを壁際に追い詰めることが目的なんじゃないかと思う。
だってわたしの背中が壁につくのとほぼ同時に、キスをしてきたもの。
唇が触れるだけの優しいキスのあと、ちゅ、というリップ音とともに唇を離す。
「で、俺を置いてどこ行ってたんだ?」
「あー、ええと、買い物に出たんですけど、途中いろいろありまして」
「いろいろってなんだよ」
「かかりつけの病院の息子さんに会ったり、家にお呼ばれしてたこ焼きご馳走になったり、いろいろです」
「息子……?」
ひのえさんがじと目でわたしを見下ろす。
かと思えば、急にシャツを持ち上げて、わたしの胸を確認し始めた。
「……よし、痕はついてない」
「ええ? 何の確認ですかそれ」
「何の確認ですかじゃねえ! なに俺がいない間に男の部屋入ってんだ! あぶねえだろうが!」
「あ、危なくないですよ、だって大学生の男の子ですもん! 八歳も下なんですよ?」
「大学生なんて多感な時期じゃねえか! なあ、若菜よぉ、おまえもっと危機感持て。男なんてみんな獣だぞ」
「確かに……。ひのえさんって優しそうに見えて結構な獣ですもんね」
「俺だけじゃねえよ、みんなそうなんだ」
ひのえさんの大きなため息。
「そんなに心配しなくても……。わたしはこんなにひのえさんが好きなのに、どうして信じてくれないんですか」
「いや、だからな、……え? なんつった? もっかい言って」
鼻先数センチの距離で話していたのだから、絶対に聞こえているはずなのに。これは言わせたいだけだ。恥ずかしいから言わないけれど。
「ひのえさん、知らないですか? 篝火燈吾くん。かかりつけの病院の息子さんで、天使の知り合いもいるみたいなんですけど」
「はあ? 篝火? 知り合いなのか?」
「だから、かかりつけの病院の息子さんですって。それから千鳥ちゃんっていう天使の子にも会いました。スーツ姿の天使も見ましたし、最近天使づくしですよね」
もう一度、ひのえさんの深いため息。でも今度は、安堵したようなため息だった。
「なんだ、篝火か……驚かせやがって……」
「早とちりしたのひのえさんですよ」
「心配なんだよ……」
ごつんと額を合わせて、不貞腐れたような顔が間近に見える。
「ずっと一緒にいたいけど、そういうわけにもいかねえし……。さっきも言ったが男はみんな獣なんだ。おまえがいつそういう奴らに持っていかれるか。出会ってから毎日、気が気じゃねえ」
「あの、出会いが出会いだったので勘違いしていると思うんですが、わたしはそんなに誰彼構わずってタイプじゃないです」
ひのえさんのときはごく稀なケースというかなんというか……。せいこちゃん風に言うなら、ビビビっときた、って感じ。……今の若い子は知らないかもしれないけれど。



