赤き死神は斬撃の歌を纏いて覚醒す

照明の消えてしまった電信柱の、上。

「そのための力もぉ、手に入れたぁ!」

小柳は、そこに、蜘蛛のように張り付いていた。

刹那、闇から小柳が降ってくる。

黒いコートを皮膜のようにはためかせ、直線。

「くっ」

亜希子は一歩大きく飛びすさり、勢いをつけての踏み込んだ。

「ぃやぁっ!!」

渇を乗せた、胴薙ぎの一閃。

相手は空中、踏ん張りは利かない。

正確に決まれば、優男の小柳など――

「ひ、ひはははっ!」

「!?」

小柳など――

「捕まえたはぁ――!」

「ぁく!?」

薙ぎ払うことが、できなかった。

女手とはいえ、渾身の一撃が見事決まったにもかかわらず。

「ぃ、ぐ、ぁ……!」

小柳の細い、なめし革のような指が、亜希子の首へ食い込む。

「ふ、ひ、ふふ、殺さないよぉ、殺さないよぉ……まだ殺さないよぉ……」

喜悦を唾液に光らせ、苦悶に歪む亜希子を前に、小柳が唇を舐めた。

(きしょくわるい……!)

亜希子は一生涯分の屈辱を味わいながら――

気を失った。