赤き死神は斬撃の歌を纏いて覚醒す

声を耳で追うも、捉えることができない。

いや。正確には、声の発生源は捉えている。

が、ありえないと亜希子は思った。

「僕は知ってるよぉ」

その一音一音が、すべて、四方八方からばらばらに聞こえる。

こんな聞こえ方をする可能性はふたつ。

「君が、その冷たい目で僕を虐げていたのをぉ」

ひとつは、自分の周囲に複数のスピーカーがあり、それを通して小柳が喋っている可能性。

が、ただの道路で、そんなことが?

不可能である。

もうひとつは、一音一音を置き去りにする速度で、小柳が周囲を跳ね回っている可能性。

「ああ……ああ……思い出してもおぞましい……いつも、いつもだ……君はその目で……僕をぉ……」

だが、そんなことが人間に?

不可能である。

いや、もし万が一、後者であり、それが事実ならば……

(普通じゃない……っ)

小柳は、人間ではないのかもしれない。

状況理解より、危機察知が、先に脳から全身へ走った。

竹刀を握る手に、汗が滲む。

ズガン――と、大きな音がし、

「だからぁ、僕は君を殺さなくちゃいけなぁい」

声が、止まった。

亜希子は、見上げる。