赤き死神は斬撃の歌を纏いて覚醒す

突進した小柳は、亜希子の背後にあった電信柱に、頭から激突し――

これを、砕いた。

頭突き、ただ一撃で。

コンクリートの、砕ける悲鳴。

「ひっ」

亜希子は、20メートルはあろうかという石柱が倒れ込んでくるのに息を飲み、

再び、横へ大きく跳んで避けた。

倒れたコンクリートが近隣の石塀を砕きながら下敷きにし、家屋の屋根に硬い雨を降らせる。

濛々、粉塵が舞い上がった。

電線が切れ、隣数本の街灯と民家の明かりが、消失する。

闇夜の月が急にその弓なりを主張し、亜希子は、舌打ちした。

痛む肩に引っ掛かっている竹刀を抜き放ち、にじり足。

背中を、塀につけた。

「先生?」

呼び掛けたのは、崩れた電信柱のあった、そこ。

亜希子は、闇の中、ゆらりと背を伸ばした影が――

「!?」

うそのように、視界から消えるのを見た。

戦慄も束の間、声が、声だけが、届く。

「関口さん……ああ、関口、亜希子さん……」

「……」

「君はずっと、ずっと僕を見てたね……ずっと僕を見ていたよね……」

「…………」

「ねぇ、見ていたよね……その……冷たい目でさぁ……」