赤き死神は斬撃の歌を纏いて覚醒す

武道の心得に準じ、現実を、自分が吹き飛ばされた地点を見た亜希子は、

「先、生……?」

そこにいるだろう、自分を殴り飛ばした者の正体に、目を疑った。

黒いコートに身を呈し、不健康と不自信から前傾姿勢を取る小柳が、いた。

信じられなかった。

亜希子は、自分が今いる場所が通り魔の多発区域だと知っている。

ならば、ここで、あの学校の女子生徒を襲撃する者は、その通り魔のはず。

が、その通り魔の手口や発生件数を考えるに、小柳が行ったなど、考えられない。

背を丸め込めて生きている、あの小柳が?

生徒に怯えてばかりいる、あの小柳が?

脆弱にして薄弱で、惰弱極まりない小柳が?

、、
あの、

、、、
小柳が?

たったそれだけだから、信じられない。

「先生」

と、呼び掛けたのがまずかったのか、なにかの蓋を開けてしまったような、小柳が突進してきた。

その動き『あの小柳』とは思えないほど速かったが、目で追えないことはない。

突きを仕掛けられたならば、横へ避ける。

亜希子はそうした。

そして、見事に小柳をかわした。

が、その直後に瞠目する。