赤き死神は斬撃の歌を纏いて覚醒す

『関口亜希子』は、遥か眼下の闇を睨んだ。

「ふうん、修羅か」

「修羅?」

亜希子が突然飛び出た仏教用語に首を傾げる。

と、まるでそれに答えるかのごとく、

「あぁぁああぁぁあぁあ!!」

小柳の雄叫びが、巻き上がった。

下方からの声が風となり、風が衝撃となり、鉄骨をギィギィ泣かせ、少女の長髪をはためかせる。

気がつけば、小柳が自分らと同じ高さの鉄骨に、へばりついていた。

魚のように丸々と飛び出し、血走った目が、二人の『関口亜希子』を映し、見開かれた。

「ああああ、せせせ、関口亜希子がふたりりりっ! そうか、そぉうか、そうかそうか!! キィィィィミはっ、そこまでして僕を虐げたいのかッ! そこまでして僕をぉぉああ!?」

叫べば叫ぶほど、他者への怯えや恐怖しか見えてこない、小柳。

(嫌な、男)

臓腑から吐き出される被害妄想に、亜希子は殺意すら孕む鬱陶しさを感じ、

「まるでゴミのような男ね」

『関口亜希子』は、それをはっきりと口にした。

小柳の体が、ぶるりと震える。

「その冷たい目で、ぼぼぼ、僕を見るなああああ――!!」