赤き死神は斬撃の歌を纏いて覚醒す





歌が聞こえていた。

その歌がなんなのか、まったく亜希子にはわからなかった。

そもそも、その歌はただ、夢の中でのみ聞く幻だと思っていた。

しかし、今は違う。

目を覚ました亜希子は眼前に、目を血走らせた小柳を見、遥かから聞こえる歌を、現実と認識していた。

昔から聞こえていた、幻の歌声。

それが今、現実になっても、聞こえる。

その現実に、現実とは考えられない小柳が、醜悪な愉悦によって緩んだ笑みを浮かべ、目の前にいる。

(ああ、これは……夢の発展した世界なの?)

そして思う亜希子は今、骨組みばかりが建築されたビルの、鉄骨に横たわっている。

風が甲高く、威勢よく、喉の潰れたトンビのような音で鳴いている。

地上は遥か下。逃げ場のない、人ひとりがようやく立てる鉄骨の上で、

「関口さん……ああ……あの関口さんが、僕のぉ、僕の下に……は、ひは……」

惰弱
脆弱
軟弱
薄弱

およそ『弱さ』というものに染まった顔の男に蹂躙されるという屈辱に、亜希子は舌を噛みきりたくなった。

が、体が、指の先すらも動かない。

屈辱は募り――歌は、まだ聞こえる。