「2年前も喧嘩だっけ?」
  彼はおにぎりを一口かじった。ほのかに香ってきたにおいから、それが鮭であることが分かった。

「冷戦状態の時じゃない?
遠距離になっちゃう前だから。」

「あー、水族館行って、その後ちゃんと話したんだよね。

あの時も倫子先に一人で帰るから、俺全然部長の話耳に入ってこなかった。」
  ハハハと彼が笑った。

「そうだったの?」
  私は鮭が食べたいなあと思いつつ、手に取ったおにぎりにかじりついた。
酸っぱい香りがした。

「うん。まあそもそも携帯壊れて、スピーカーモードになるのが悪かったんだけどね。
もう携帯すごい恨んだ。」
  そう言われて、シートの上に置いている彼の携帯を必然と見てしまった。

その話し合いの後彼はすぐに携帯を変えてしまって、もうあのときのそれではないのだけれど。

「でも私、スピーカーモードになってなかったら話し合いしようってならなかったと思うな。」

「…そう?」

「うん。」
 それまでずっと遠距離に対するトラウマから、彼と話すことを避けていた私。

逃げていた私。
だめだってわかっていた、話さなきゃって。
そう思っていてもできなかった。

でも部長の声が私の耳に直接届いてきて、私は覚悟を決めた。

彼を信じて、遠く離れても思うことを。
彼となら、直人となら大丈夫だってことを。

「なんか俺たちっていろんな偶然が重なって、一緒にいれてるのかもしれないね。

携帯のもそうだけど、他の面でもさ。」
  彼は最後の一口を口にいれた。

そうかもしれない。
例えば彼とケンカしたとき、お姉ちゃんの言葉がなかったら、私はもっと早く別れを告げたのかもしれない。