「聖獣王って不死身じゃないんですか!?」
「耳元で叫ぶな。殺されることはないが寿命はある」

 うるさそうに顔をしかめて、ワンリーはメイファンから少し身を退いた。
 殺されないのなら、たとえテンセイで処刑されようとも無用の心配だったことになる。メイファンは声を落としてまた尋ねた。

「では、剣で斬られても大丈夫だったんですか?」
「まるっきり大丈夫というわけでもない。人の作った剣なら平気だが、魔獣や聖獣の持つ剣は霊体に傷をつける。霊体が大きな傷を負えば、聖獣や魔獣は霊体の傷が回復するまで実体を維持することができなくなるんだ」

 なるほど。処刑の心配は無用でも、タオウーの黒龍剣で傷つけられたら、ワンリーも無事ではすまなかったということらしい。しかも黒龍剣は雷聖剣よりも堅いという。

「雷聖剣を作り直しても、黒龍剣が相手ではまた折られてしまうということですよね」
「そり通りだが、そもそも作り直すことができない。金の麒麟は俺しかいないからな。角を失えば霊力も激減する」

 ということは、雷聖剣は先代聖獣王の死後、その角から作られたということなのだろう。

「雷聖剣なしでテンセイの聖獣殿を封じている呪詛結界を解く方法はないんですか?」
「難しいな。術師は人だ。チョンジーに惑わされて陰の気の塊になっている。人から陽の気を奪うのは簡単だが、陰の気を祓うのは雷聖剣なしでは容易ではない。術師が死ねば結界も解けるだろうが、俺は人を殺すことができない。人を殺せば聖獣ではいられなくなる」

 確かに魔獣に操られているだけの人を殺してまで結界を解くというのは、いささか乱暴な気がする。

「雷聖剣を修理することはできないんでしょうか。とりあえず術師の陰の気を祓うためだけに」
「技術的には可能だ。ジャオダンは聖剣の鍛冶師なんだ。しかもつなぎに使う媒体によって修理前より強化される」
「え? それじゃ黒龍剣よりも強くなるんですか?」

 喜々として尋ねるメイファンに、ワンリーはなぜか苦笑する。

「かもな。だが、媒体となる龍玉(りゅうぎょく)がないのだ」
「龍玉って龍の持つ玉ですか?」
「そうだ。龍の力の源になっている。だから生きた龍から奪うわけにはいかないのだ。龍も麒麟と同じくらい長生きでな。なかなか手に入るものではない」

 ふたりが途方に暮れていた理由がメイファンにもようやくわかった。