ワンリーがメイファンの手を解いて、剣を構えたまま一歩前へ出る。

「おまえはさがっていろ」
「ガーラン様を斬るのですか? 体は乗っ取られた人なんでしょう?」
「案ずるな。雷聖剣は人の身を傷つけることはない」

 それを聞いてメイファンがホッとした時、ガーランが大声で叫んだ。

「タオウー!」

 ガーランの発した声が突風を巻き起こす。直後、ワンリーの雷が天井に空けた穴をさらに広げて、武装した大男が降り立った。
 長身のガーランよりもさらに上背があり、宮廷武官の武具から覗く体は分厚い筋肉で覆われている。大男はニタリと笑って、ワンリーを見下ろしながら後ろのガーランに問いかけた。

「呼んだか?」
「おまえの出番だ。そいつを倒して娘を奪え」
「暴れていいんだな?」
「好きにしろ」
「よっしゃぁーっ!」

 タオウーは歓喜の声を上げながら、持った大剣をグルリと振り回す。剣圧に押されてメイファンは尻餅をつき、ワンリーは身を低くしてメイファンをかばいながらそれをよけた。
 メリメリと轟音を立てて庵の壁が破壊される。

「これで存分に暴れられるぜ」

 タオウーの満足げな声に恐る恐る周りを見回すと、庵の天井は吹き飛ばされ、壁はなぎ倒されていた。
 派手な破壊音に宮殿の方から回廊をドカドカと走る音が近づいてくる。

「まずいな……」

 つぶやいたワンリーは少しゆっくりとまばたきをした。すると庵の近くまで来ていた足音は急停止し、ざわつく声が聞こえてくる。ワンリーの肩越しにメイファンが窺うと、庵の少し向こうで宮殿の衛視たちが不思議そうに首を傾げていた。庵の惨状が見えていないようだ。
 その様子を横目に見ながら、タオウーが鼻を鳴らす。

「フン。結界か……」
「あぁ。ここは俺の領域になった。おまえは本性を現せないということだ」

 ワンリーは不敵に笑って立ち上がった。そしてメイファンの肩を軽く突き放す。
 よろけて二、三歩後退したメイファンにワンリーは笑顔を向けた。

「おまえはそこにいろ。特別の結界だ。チョンジーにも手出しはできない」