「ワンリー様!」

 メイファンの声に振り向いたワンリーは笑顔で目配せした。そして目の前にいるガーランに向き直る。
 無表情でワンリーを見つめているガーランにメイファンは違和感を覚えた。いくら冷静な人でも、この状況は普通に動揺するだろう。実際にメイファンは未だにドキドキしている。
 するとワンリーが唐突に天井に空いた穴に向かって右手を突き上げた。

「雷聖剣!」

 ワンリーの手の中に刀身に雷(いかずち)をまとった剣が現れる。雷聖剣を両手で握り直したワンリーはその切っ先をガーランに向けて身構えた。
 人を傷つけないと言っていたワンリーが、人に対して敵意を露わにしている。それほど怒っているということなのかもしれないが、傷つけるのはやはりまずいと思う。
 メイファンはワンリーの腕に取り縋った。

「ワンリー様、その方は帝の側近をしているガーラン様です」
「なるほど。そんなところにまで侵入していたのか。帝がご乱心あそばされるはずだ」
「え?」

 こちらには目もくれず、ワンリーはガーランを見据えたまま言う。

「こいつは人心を惑わすのが得意だからな。人を惑わし、体を乗っ取り、さらに多くの人を惑わす。体は乗っ取られた人間のものだが、中身はチョンジーだ」
「チョンジーって、あの……」
「魔獣の王だ」

 メイファンはガーランに視線を向けた。これまで見てきた穏やかな表情とは打って変わって、憎々しげに顔を歪めてワンリーを睨んでいる。なにも反論しないということは、ワンリーの言うとおりなのだろう。
 ということは、メイファンは危うく魔獣王の手に落ちようとしていたのだ。ガーランをなんとなく怖いと思っていたのは、聖獣の加護を受けたおかげで、薄々感じ取っていたのかも知れない。