結局なぜ手助けしたいのかはよくわからない。危険を承知で手助けしてもらえるのはありがたいとは思うが、真意がわからずメイファンはそれを探るように告げる。

「でも私は、そのご恩になにもお返しできるものがありません」
「ありますよ」
「え?」

 即答されてメイファンは思わず目を見張る。ガーランの深淵を思わせる冷たい瞳が、艶をたたえてメイファンを見つめた。

「私の妻になって下さい」

 思いも寄らない申し出に、メイファンは息を飲む。ガーランは愛おしげに目を細めて、メイファンに一歩近づいた。

「お連れの方が無事に逃げおおせたら、あなたはここからいなくなってしまう。それは私が辛いのです」
「私が奥様に似ているからですか?」
「きっかけは、そうですね。でもあなたは、妻となにもかも違っています。妻は私に笑顔を見せたことはありませんでした。今はあなた自身を愛おしく思っています」

 思わず励ましてしまったことが、彼の想いに火をつけてしまったのだろうか。
 彼の元に嫁いだことが、亡き妻の不幸だったとガーランは言った。奥様にとっては望まない結婚だったということなのかもしれない。この状況でメイファンが妻として彼の元に嫁いだとしても、同じことの繰り返しではないだろうか。なにより、メイファンはガーランのことが怖くてしかたない。

「お気持ちは嬉しく思います。でも、こんな結婚は……」

 なにか他の手だてはないものかと、メイファンが断りかけた言葉をガーランは遮った。

「弱みにつけ込む卑怯者だと罵られることは承知の上です。それでも、あなたを手に入れることができるなら、私は甘んじて卑怯者になりましょう」

 どうしてそこまで自分に執着するのかメイファンにはわからない。けれどこの様子では、他の手だては考えられないような気がする。