「申し訳ありません。私の力が及ばず……」
うなだれてつぶやくガーランをメイファンは呆然と見つめる。頭が働かない。なんとかしなければという焦りだけが心を支配する。
苦手だけれど今頼れるのは、帝に直接話をできるガーランしかいない。無理だとわかっていても、メイファンは力なくガーランに尋ねた。
「なんとか、ならないのでしょうか……」
「帝の命に背くことは……」
帝の側近とはいえ、帝の意見を覆すことはガーランにも無理なのだろう。当然といえば当然な返事にメイファンは絶望的な気分になる。
ふたりで黙ったままうつむき、しばしの時が流れる。突然ガーランが思い詰めたような表情でつぶやいた。
「……なんとかしましょう」
「え?」
なんとかなるのだろうか。かすかな光明に期待しつつも、怪訝な表情で見つめるメイファンに、ガーランはなにか吹っ切れたような笑顔を向けた。
「私はあなたが悲しむ姿を見たくはありません。けれど、帝の命に表立って背くこともできません。だから秘密裏に私の権力と知略のすべてを使って、あなたのお連れの方を逃がして差し上げましょう」
ワンリーさえ逃がしてもらえるなら、とりあえず安心できる。客人扱いの自分は今のところ処刑の心配はないのだから。でも……。
「どうしてガーラン様は昨日会ったばかりの私たちに、そこまでしてくださるのですか? もしも逃がしたことが発覚すれば、あなたの立場も危うくなるのではありませんか?」
「確かに危険はあります。あなたに軽蔑されるのかもしれませんが、はっきり言ってお連れの方にはなんの思い入れもありません。こんな時にわざわざ立て札の警告を無視して聖獣殿に立ち入ったのが自業自得とすら思えます」
確かに自業自得と言われれば、その通りではあるが、ガーランの淡々とした冷たい物言いに、メイファンはムッとして彼を睨む。しかしそれを全く気にした風でもなく、ガーランは続けた。
「ですが、お連れの方が処刑されれば、あなたは悲しむのでしょう? だから手助けしたいのです」