「あの、ガーラン様はどうして、罪人として捕らえられた私を客人として扱ってくださるのですか?」

 ガーランは立ち止まり、懐かしそうな目でメイファンを見つめた。メイファンも立ち止まり、それを見つめ返す。

「あなたとは初めて会ったような気がしないのです」
「え? 会ったことないと思いますけど?」

 たぶん初めて会ったはず。まさかワンリーのように前世で会ったとか言うのではないだろうかと少し不安になる。
 困惑気味に答えるメイファンに、ガーランはプッと吹き出した。

「えぇ。確かに初めて会いました。けれどあなたは、私の妻にどことなく似ているのですよ」
「奥様がいらしたんですか」
「ずいぶん前に亡くなりましたけどね。私の元に来たから、妻は幸せではありませんでした」

 独り言のようにつぶやいてガーランは寂しそうに目を伏せる。反射的にメイファンは彼の腕をとって揺さぶった。

「そんなことありません。亡くなったあともこんなに気にかけているガーラン様の愛を奥様もわかっていたと思います。幸せでないはずがありません」

 メイファンの必死な様子にガーランは少し面食らったように見つめる。そして穏やかに微笑んだ。

「あなたにそう言ってもらうと、なんだか妻から許されているような気がしますね。ありがとう。おかげで少し気が楽になりました」
「いえいえ。あなたの心配を和らげることができたなら光栄です」

 ガーランを真似ておどけたように言うメイファンを見て、ガーランは益々笑みを深くする。互いに笑って頷くと、ガーランは先に立って歩き始めた。

「この先です」

 後ろに続くメイファンを振り返り、ガーランは促す。メイファンが小走りに近寄るのを確認して背を向けた。その口元に冷たい笑みが浮かんだことを、メイファンは知る由もない。

 突然立ち止まったガーランは池の隅を指さした。

「あれです。珍しい色でしょう」

 ガーランの後ろから池に目をやって、メイファンは息を飲む。池の隅には見たこともない色の睡蓮が咲いていた。
 中心が乾きかけた血のように赤黒く、花弁の先にいくほど黒が濃くなっている。そんな禍々しい色の睡蓮が密集して咲いている様は、池の水面にぽっかりと地底の闇へと続く穴が空いたようにも見えた。

「あれは、以前からあったのですか?」
「いいえ。私も初めて見ました」

 魔獣の門が開いた日に見た黒い太陽を思い出して、メイファンは言いようのない不安に身震いした。