月明かりに照らされた庭園の回廊をガーランはひとりで歩いていた。政務から解放され、ひとりきりになれる夜の散歩は心地いい。特に決めているわけではなかったが、いつの間にか日課のようになっていた。

 今日はシィアンの魂を宿す娘がいる。まだ心を許してはいないが、シィアンのように冷たく拒絶されてはいない。もう少し言葉を交わして、距離を縮めたい。
 まだ眠るには少し時間が早いだろう。そう思って娘のいる庵に足を向けた。

 池の上にある庵が見えてきた時、強い光の気配を感じてガーランは咄嗟に自分の気配を殺す。回廊の柱の影にひそんで庵を注視すると、金の麒麟が飛び立つのが見えた。人にその姿は見えないが、チョンジーと同化したガーランには見える。
 ガーランは庵を睨んで歯噛みした。

「ワンリーめ。もう嗅ぎつけたか。急がねば」

 ガーランの胸の内で、黒い炎が燃え上がった。