帝都テンセイは他の都とは比べものにならないほど途方もなく広い。都の中心には帝のおわす広大な宮廷があり、聖獣殿はその背後に隣接して建てられていた。
 宮廷は四方に門があり、当然ながらそこには門番がいる。また怪しまれては面倒なので、ひとつ外れた通りを進んで聖獣殿を目指す。民家の建ち並ぶ通りにも、やはり人影はない。時々窓から外を窺っている人はいたが、そちらへ目を向けると慌てて窓を閉ざされた。整然としたきれいな町並みなのに、ものすごく居心地が悪い。

 人がいないのに注目されているのはわかっているので、ワンリーも姿を消すことができないようだ。メイファンの手を引いて黙々と歩いた。

 やがて行く手に聖獣殿の参道が見えてきた。その先にはテンセイの守護聖獣チンロンを象徴する青色で統一された石造りの建物が見えている。参道の入り口には大きな文字で立ち入り禁止と書かれた立て札が立っていた。
 ワンリーは立て札を無視して先へ進む。メイファンは慌てて引き止めた。

「ワンリー様、立ち入り禁止ですよ」
「わかっている。だが、入らなければ聖獣殿の様子がわからない」
 
 そう言ってワンリーはどんどん先に進む。確かにその通りだが、決め事に反するのはまずいのではないかと気が気ではない。
 メイファンがおろおろしながらついて行くと、少ししてワンリーが突然立ち止まった。道の先は見えているのに、目の前に薄黒い幕が張っているように感じる。

「なんですか? これ」
「呪詛結界だ。おまえにも見えるのか。聖獣の加護を受けたからだな」

 それを聞いてメイファンの胸はドキリと脈打った。人には見えないものなのだろうか。
 聖獣の加護を受けても、特になにも変わっていないと思っていたが、最初にワンリーが言ったように、人とは違う存在になりつつあるということなのかもしれない。