雨に降られて思いがけず久し振りにゆっくりできたメイファンたちは、翌朝宿場町シタンを発った。半日かけてテンセイへ向かいながら、メイファンはワンリーから帝都に異変が起きていることを聞く。魔獣が待ちかまえているかもしれないというので、緊張しながらテンセイの門をくぐった。
 ワンリーの陰に隠れるようにして入ったテンセイの都は、異様なほど静まりかえっている。シンシュより何倍も広い石畳の大通りに面して、商店が軒を連ねているが、開いている店は数軒で、ほとんど戸を閉ざしていた。なにより、門番の衛兵以外に通りには人の姿がない。
 火が消えたようだとシタンの宿で聞いていたが、これほどまでだとは思わなかった。あたりをぐるりと見渡して、メイファンは呆然とつぶやく。

「誰もいませんね」
「そうだな。ここまで人がいないとは思わなかった。姿を消さずに門をくぐったのはまずかったか」

 ワンリーもあたりを見回して小さく舌打ちした。
 人に紛れようにも人自体いなければ紛れようがない。おまけに誰もいない町をうろついているだけで十分すぎるほど目立っている。立ち尽くすメイファンたちを先ほどから衛兵が怪訝な表情で見つめている。
 いたたまれなくなって、メイファンはワンリーをそそくさと促した。

「聖獣殿に向かいましょう」
「そうだな」

 これだけ注視されていては姿を消すわけにもいかないだろう。背中に痛いほどの視線を感じながらも、ふたりは何食わぬ顔で通りを進み、聖獣殿に向かった。