武官と共にたどり着いた太子の寝所の前では、武官に薬師、侍従たちがおろおろしながら部屋の中を窺っている。部屋の中から帝の怒鳴り声が聞こえてきた。

「ええい! ガーランはまだか!」
「陛下。ご用でしょうか?」

 部屋に入ったガーランは、いつものことなので涼しい顔で帝に尋ねる。それが神経を逆なでしたようで、帝はさらに声を荒げた。

「ガーラン! いったいいつになったらジーフォンはよくなるのだ! 薬湯も術も一向に効かぬではないか!」

 帝の指さす寝台には青白い顔をした太子ジーフォンがうつろな目を半開きで放心したように横たわっている。その頬には龍の形をした青い痣があった。チンロンの呪いだと言われている。
 太子のそばでは、黒い頭巾を目深にかぶった術師が頭を垂れて控えていた。
 帝の怒声にも、ガーランは我関せずといった様子で淡々と答える。

「チンロンは守護聖獣の中でも一番強力です。その呪いも強力ゆえ、祓うのには時間がかかるのです。ジーフォン殿下の御身は私が責任を持ってお救いいたします。今しばらくご辛抱を」
「ええい! 忌々しい!」

 捨てぜりふを残して帝はガーランに背を向ける。そして足音も荒く部屋を出ていった。そのあとにあたふたと武官や薬師、侍従たちがつき従う。皆が立ち去ったあと、太子の寝所には眠る太子のほかにはガーランと術師、そして出入り口を警護する武官がひとりだけ残された。
 ほかの武官よりもひときわ体が大きく屈強な武官は、出入り口から顔を覗かせて、立ち去った者たちを見送る。そしてニヤニヤと笑いながらガーランに歩み寄った。

「すっかり信じきってるようだな。守護聖獣が人を呪うなんて普通思わないだろう」
「我が子の大事に、人は普通じゃなくなるものだ」
「さすがは人心に精通している魔獣王」