宮廷の広大な庭園を巡る極彩色の回廊に男がひとり立っていた。人の集団の中にいると時々息が詰まりそうな気がして、ひとりになりたくなる。そんなときに広大な庭園はちょうどよかった。
 宮廷内で帝の側近として仕えている男は、自由にできる時間もあまりない。わずかな時間を見つけては外に出ていた。

 なにしろテンセイは、守護聖獣では最強のチンロンが守護している帝都だ。ガイアンでは東の端に位置し、魔獣の都からは一番離れている。帝とチンロンの威光で町も人々も活気に満ちていた。その眩しさが男は苦手だ。

 活気に満ちた眩しい市井は居心地が悪く、逃げるように知り合いのいない宮仕えを選んだ。入ってみると権謀術数渦巻く宮廷内は、薄暗くて心地いい。
 人付き合いを避けてあらゆる学問に没頭していたのが功を奏し、その知識量と頭脳が認められ、気付けば帝の側近まで上り詰めていた。

 帝とは縁もゆかりもない男が、帝の信頼を得て側仕えを許されているのは、他の官吏たちから恨みを買う。そんな黒い感情が周りを取り囲んでいることも、権力を得た今となっては心地いい。
 元々暖かくてキラキラしたものは苦手だったが、男の中には冷たくどす黒いものが蓄積されていった。
 それが魔獣の王を引き寄せた。

「ガーラン殿ーっ! 至急お越しください。帝がお呼びです!」

 池に浮かぶ睡蓮をぼんやりと眺めていた男の元へ、武官が血相を変えてやってきた。
 どうやら帝がまた癇癪を起こしているらしい。

「すぐ行く」

 ガーランは武官を後ろに従えて早足で宮殿へ向かう。その口元には微かに笑みが浮かんだ。