人の術師による呪詛は陰の気の塊で、陽の気を糧とする聖獣には直接太刀打ちはできない。まずは呪詛の元となる人から陰の気を祓わなければならないのだ。

「チョンジーの奴、人のてっぺんを狙ったか」
「いかがいたしましょう」
「俺がなんとかする。だが、帝都が落ちれば次は他の都にも奴らの手が伸びる。おまえはシンシュに戻り、万が一に備えてくれ」
「御意」

 エンジュは再び光の玉に変化して窓から飛び立った。ワンリーは窓を閉めて、メイファンの眠る寝台の縁にそっと腰掛ける。穏やかな寝顔を見つめながら、口元に笑みを浮かべた。

 本当はチョンジーの待ちかまえているテンセイに連れて行きたくはない。けれど自分がそばを離れれば奴らの思うツボに違いない。
 不安にさせるまいと黙っていたが、チョンジーの思惑がはっきりしない以上、メイファンにも注意を促すべきだろう。

 朝になったら話すことを決意して、ワンリーは子犬の姿に変化する。そしてメイファンの枕元に伏せた。

「ん……」

 気配を感じたのか仰向けだったメイファンが、ワンリーの方に体を向ける。そして無意識のまま腕を伸ばしてワンリーを抱き寄せた。
 やはりこの腕の中は心地よい。この幸せをチョンジーに奪われてなるものかと決意を新たにさせる。細い両腕に抱えられて、ワンリーはその心地よさに酔いしれた。