バイフーの声に誘われて、西から星空を覆い隠すように、うごめく闇が近付いてくる。それはおびただしい数の巨大な異形の魔獣たち。
 虫や蛇や猛獣に似たものや、それらがひとつに組み合わさったようなおぞましい姿をしている。

 初めて目にした聖獣と魔獣の姿に、メイファンは空を見上げたまま立ち尽くした。

 バイフーは口から白い炎を吐きながら、向かってくる魔獣たちを大きな前足でなぎ倒す。
 数は魔獣の方が圧倒的に多いが、メイファンにはバイフーの方が優勢に見えた。

 しばらく空を見つめていたメイファンは、ようやくハッと我に返った。
 魔獣は人を喰らうと聞く。幸い今はみんなバイフーに気を取られていて、地上にいる人には見向きもしていない。

(今の内に逃げなきゃ!)

 メイファンは聖獣殿に向かってかけだした。
 周りにいた人々はいつの間にかいなくなっている。通りにはメイファンだけしかいなかった。

 次の角を曲がれば聖獣殿が見える。メイファンが歩を早めたとき、通りの真ん中に大きな魔獣が降り立った。
 全身は炎をまとったような橙色の毛で覆われ、四つの足には黒い縞模様があり姿は虎のようでもある。そして背中には鷲のような二つの翼が生えていた。
 その翼が巻き起こす風に煽られて、メイファンは一歩後ろに足を退いてよろめく。

 魔獣の赤い瞳がメイファンを捉え、耳まで裂けた大きな口が薄く開いて鋭い牙がのぞく。ニタリと笑ったように見えた。

「見つけたぞ、門の娘」

 魔獣がしゃべったことにも驚いたが、地の底から響くような低いその声に身がすくむ。メイファンは声を出すこともできず、その場に立ち尽くした。

 門の娘とは自分のことだろうか。だとしても、いったいなんのことなのか、さっぱり思いつかない。

 動けずにいるメイファンに向かって、魔獣が一歩踏み出す。
 その直後、魔獣の足元に、轟音と共に雷(いかずち)が突き刺さった。

 その衝撃に押されてメイファンは、その場に倒れる。上半身を起こして雷の落ちた場所を見ると、そこには光り輝く金の聖獣がいた。