一応納得はしたようだが、男性の表情は相変わらずさえない。

「どうした?」
「いえ、近頃テンセイもあんまりいい噂は聞かないんで……」
「どういうことだ?」
「太子様がご病気でお加減がすぐれないらしくて、帝がピリピリしてるそうなんですよ。些細なことで投獄される者が後を絶たないってんで、都中火が消えたようになってるらしいですよ。帝都だから以前はシンシュに引けを取らないくらい賑やかで活気があったんですけどねぇ」
「なるほど」
「所用なら仕方ないですけど、長居はしない方がいいと思いますよ」
「わかった」
「じゃあ、ごゆっくりどうぞ」

 そう言って男性は部屋を出ていった。それを見送った後、ワンリーは険しい表情でなにやら考え込んでいる。そんなワンリーを見つめながら、メイファンは濁り酒をちびちびと飲み続けた。やがて酒が底をつきてもワンリーは黙ったまま考え込んでいる。さすがに気になってメイファンは声をかけた。

「あの、ワンリー様。何か気がかりでもあるんですか?」

 ハッとしたようにこちらを向いたワンリーは、取り繕うように笑顔で答える。

「いや、明日には雨がやめばよいが、と考えていた」
「そうですね」

 窓の外に目を向ければ、今や本格的に降り始めた雨が、幕を張ったように遠くに見えるはずのシェンザイを見えなくしている。視線を戻すと目の前に濁り酒の入った器が差し出された。

「この酒が気に入ったのだろう? 俺の分も飲んでくれ」
「ありがとうございます。あとでいただきます」

 ワンリーは飲み食いをしない。せっかくの好意が無駄になるのは申し訳ないので、メイファンがかわりにいただくことにした。だが、あまり強い酒ではないとはいえ、一気に二人分はさすがに酔ってしまいそうだ。夕食の後にでもいただくことにした。