部屋へ案内されホッと一息つく。コンシの宿と同じくらいの小さい部屋には、大きめの寝台がひとつと部屋の隅に小さな円卓とイスが二脚置かれているだけ。ここも夫婦用の部屋のようだ。
 メイファンとワンリーが並んでイスに座ったとき、先ほどの男性が飲み物を運んできた。

「どうぞ。温まりますよ」

 ニコニコ笑って男性が円卓に置いた小さな器の中には、湯気の立つ白い液体が入っている。ほんのりと甘い湯気の香りから、それが濁り酒であることがわかった。

「ありがとうございます。いただきます」

 礼を述べてメイファンは、舐めるようにほんの少し酒を口にする。砂糖で甘く味付けされていて、それほど強い酒ではないようだ。安心してもう一口飲むと、のどを通る酒の温かさに、体が少し温かくなった。

「おいしいです」

 メイファンがそう言うと、男性は嬉しそうに笑顔をほころばせる。

「それはよかった」

 そして上機嫌のままワンリーに尋ねた。

「お客さんたちはシンシュからいらしたんですか?」
「いや、ビャクレンだ」

 それを聞いて男性の表情が曇る。

「もしかして、逃げてきたんですか?」
「なに?」
「ビャクレンは魔獣に襲われたんでしょう?」
「なんだ、もうこんなところまで噂が届いているのか。誰から聞いた?」
「行商人です」
「そうか」

 ビャクレンには野菜や果物を仕入れるために多くの行商人がやってくる。行商人なら荷車を引いた馬で移動しているから、メイファンたちより先に噂を運んできたのだろう。
 不安そうにしている男性に、ワンリーは笑顔で答えた。

「案ずるな。魔獣が襲ってきたのは事実だが、聖獣が追い払ってくれた。今は元通りだ。それに俺たちは逃げてきたわけではない。所用があってテンセイに向かっているところだ」
「そうですか……」