午後になってシタンの町が見えてきた頃、空は今にも降りだしそうなほど黒い雲で覆われた。あたりは日が暮れかかっているかのように薄暗くなっている。メイファンの手を引いて、ワンリーが促した。

「少し急ごう。雨が降る」
「はい」

 言われたとおりに歩を早めて、ふたりがシタンの町に入ったとき、とうとうポツポツと雨が降り始めた。雨は見る見る勢いを増し、音を立てて地面を叩く。
 ふたりは慌てて近くにあった宿屋の軒下に駆け込んだ。

「なんとかずぶ濡れになるのは回避できたな」
「はい」

 軒下で空を見上げながら、手ぬぐいで服にかかった雨をぬぐう。そこへ宿屋の奥から男性が現れて声をかけてきた。

「いやぁ、災難でしたね。奥で温かいものでも飲んでゆっくりしていってください」
「あぁ。そうさせてもらおう」

 この宿は飲食店も兼ねているようだ。シタンからテンセイまでは半日もかからない。まだ陽も高いので雨宿り客だと思われたのだろう。申し出を快く受けて、入り口を入りながらワンリーが尋ねる。

「ついでに一晩泊まりたいのだが、部屋は空いているか?」
「おや、お泊まりでしたか。えぇ、空いてますよ」
「そうか。では頼む」
「ありがとうございます。では、お部屋で休まれますか?」
「あぁ。その方がありがたい」
「かしこまりました。こちらへどうぞ」