人の姿をしたワンリーがイヤというわけではない。ワンリーは多少強引でズレたところがあるけど、メイファンには優しくていつも身を案じてくれる。おまけに初対面から変わることなく、無償とも言える愛情を見せつけられている。ただ、見た目がきれいすぎて、ドキドキするし、気後れしてしまうのだ。

 最初はガイアンの安寧のためとか、両親や自分が辛い目に遭わないためとか、ある意味悲痛な思いで彼の妻になることを決意した。けれど、ほんの少しだけどワンリーを知って、今は夫となる方がワンリーでよかったと思い始めている。そして両親に納得してもらうために言った言葉が真実味を帯びてきた。

『私は幸せよ』

 たぶん幸せだと思う。すべてにケリが付いたら、もっと実感するだろう。『必ず俺に惚れさせてみせる』と豪語したワンリーの思うツボな気がして少し悔しいけど。

 子犬のワンリーは寝台から飛び降りて人の姿に戻った。そしてぼんやりと寝台に座っているメイファンの手を取って立ち上がらせる。

「食事が済んだらすぐに発とう。昼過ぎにはシタンに着くとは思うが、空模様が怪しい。雨に打たれておまえが風邪をひいては困る」
「はい」

 窓から外を窺うと、確かにどんよりと曇っている。すぐに雨が降りそうなわけではないが、途中で雨に降られるのは避けたい。
 朝食を終えて昼ごはん用の饅頭をひとつ包んでもらうと、メイファンとワンリーはコンシの町を出た。