ちゃっかり金の入った袋を奪い返して、ワンリーはメイファンと共にその場を離れた。ペコペコと頭を下げる男たちが見えなくなったところで、メイファンはワンリーに尋ねた。

「ワンリー様、どうしてあの人たちにお金を渡そうとしたんですか?」
「俺は人と争ったり傷つけたりしないのだ」
「悪い人でも?」
「そうだ」

 やはり人を守護する聖獣だから、人を守ることしかしないのだろうか。それにしたって悪いことをしている人に対して、傷つけることはなくても怒りもしないというのはどうも納得できない。首を傾げるメイファンにワンリーは説明する。

「争ったり傷ついたりすると、人は陰の気を発する。それでは魔獣の思うつぼだ。金を渡せば争いは回避できるし、欲を満たしてあいつらは喜び陽の気を発する。それは俺の糧になる」

 なんと。情けは人のためならずということらしい。案外打算的な聖獣様に内心呆れる。それが知れたわけではないだろうが、ワンリーは不愉快そうに眉を寄せた。

「だが、おまえまで奪おうとするのは許せぬ」

 そういえば、あの時もワンリーは怒っていた。あのまま魔獣が現れなければ、あの男たちと争っていたのだろうか。やけに丁度よく魔獣が現れたけど。

「あの魔獣はやはり私の波動に誘われて現れたんでしょうか」

 気になって尋ねると、ワンリーはいたずらっぽく笑った。

「あれは俺が作り出した幻影だ」
「へ?」
「あれであいつらとの争いは避けられるし、俺が倒して見せれば感謝されて陽の気も得られる」

 どうりで、同じ剣なのに彼らには手応えがなくて、ワンリーにはあっさり倒されたはずだ。ワンリーがなにか聖獣の特別な力でも使ったのかと思っていた。

 呆気にとられるメイファンの手を引いて、ワンリーは楽しそうに促した。

「また夜盗に出くわしては面倒だ。さっさと町まで行こう」
「はい」

 コンシの町灯りはもうすぐそこに見えている。メイファンは気力を奮い立たせて、疲れた足を前に進ませた。