男たちが反射的に振り返る。先ほど男たちが潜んでいた藪の暗闇に赤いふたつの目が光っていた。姿はよく見えないが、真っ黒な毛に覆われた大きな影はゆうべの魔獣によく似ている。

「なんだ、ありゃぁ!?」
「ま、魔獣!?」

 慌てふためく男たちのひとりが、剣で魔獣を斬りつけた。だが、魔獣はまったく傷を受けた様子もなく、微動だにしない。

「なんだ、こいつ。手応えがねぇ!」
「うわぁっ! こっちに来る!」

 魔獣がのそりと一歩こちらに進んだのを見て、男たちは慌ててワンリーのそばまで引き下がった。
 メイファンは魔獣を見つめたまま、ワンリーの後ろで彼のそでをぎゅっと掴んだ。それに気づいたワンリーが少し振り向きながらメイファンの手に自分の手を重ねる。見上げると、目があった彼は口元に少し笑みを浮かべて小さく頷いた。
 大丈夫。心配するな。そう言われた気がして、メイファンは手を離した。

 ワンリーは隣にいた男に手を差し出す。

「剣を貸せ。俺がしとめてやろう」

 男は黙って素直に剣を差し出した。受け取った剣を持ってワンリーは魔獣の前に進み出る。そして両手で剣を握り直し、上段に振りかぶった。すぐにそのまま真下に振り下ろす。
 魔獣の真っ黒い影は真っ二つに裂け、断末魔の悲鳴を上げながら霧のようにかき消えた。それを見て男たちが感嘆の声を漏らす。

「すげぇ……」

 涼しい顔で戻ってきたワンリーは、呆然と見つめる男に剣を返した。男はハッとしたように頭を下げる。

「お見逸れしました!」
「これに懲りてまじめに働くことだな」
「はいぃっ!」