センダンを出て、途中何度か休憩しながら、日が沈みかけた頃、ようやく街道の先に宿場町コンシの灯りが見えてきた。こんな長距離を歩いたのは初めてで、メイファンの足はすでに棒のようになっている。なんとか気力を振り絞って前へ進んでいた。

 メイファンの足腰が疲れ果てていることは、ワンリーにも気づかれているらしい。たびたび抱き上げようとするのを丁重にお断りした。
 抱き上げられるのは困るけど、あまりに疲れすぎていて麒麟の背に乗せてもらえるならいいのにと思ってしまう。

 目立ちたくないから人の姿で歩いて行くとワンリーは言っていた。けれどワンリーは姿を消すことができる。姿を消していれば麒麟の姿で走っていても、かまわないのではないだろうか。
 ちょっと気になって聞いてみると、ワンリーは申し訳なさそうに苦笑する。

「人には見えないが、魔獣には見えるのだ。人の姿で人の中に紛れている方が魔獣からは目立たない」

 そうだった。目立ちたくないのは人に対してではなく、魔獣に対してだった。ゆうべ魔獣に襲われたばかりなのに、すっかり忘れている緊張感のない自分にあきれる。小さくため息をこぼすメイファンの腕をワンリーが掴んだ。

「俺の背に乗りたいならおぶってやろう。やはり疲れているのだろう?」
「いえ、大丈夫です。町もすぐそこですから」
「遠慮するな」

 確かに疲れてはいるが歩けないほど体調を崩しているわけでもケガをしているわけでもない。なのに子どものようにおぶってもらって町に入るのは恥ずかしい。
 すっかり暗くなってしまった街道の隅で押し問答を続けていると、突然路傍の藪がガサガサと音を立てた。