ふわふわの毛並みに頬をなでられて、メイファンは目を覚ました。腕の中で金茶色の子犬が丸くなっている。あわてて布団をはねのけて体を起こした。
 子犬は前足を前に滑らせて背中を伸ばしたあと、何食わぬ顔でメイファンに挨拶をする。

「おはよう」
「ワンリー様、添い寝はお断りしたはずですが」
「おまえが寝ながら抱き寄せたのだ。俺は枕元に座っていただけだ」
「え……」

 まったく記憶にない。そもそも床についたとき、ワンリーは人の姿で窓辺にたたずんでいたのだ。
 意識しすぎていた初夜はメイファンが気にするようなことはなにもなく、ワンリーは言葉通りにメイファンの話を聞いた。幼い頃の様子やビャクレンでの暮らしなど他愛のない話に相づちを打ちながら耳を傾ける。夜も更けた頃メイファンはひとりで床についた。

 ワンリーの言うことが本当だとすると、無意識とはいえとんでもなく恥ずかしい。火を噴きそうなほど顔が熱くなって、メイファンはうつむいた。
 ワンリーは気にもとめず嬉しそうにしっぽをフリフリする。

「おまえに抱かれるのは心地よいな。人の姿をしているときも遠慮なく抱いていいぞ」

 それは遠慮する。でも子犬の姿だから油断して気がゆるんでいたような気がする。真っ向から拒否するのも妻となる身としてはどうかと思うので譲歩してみた。

「……麒麟の姿なら」
「そうか!」

 苦し紛れの言葉にもワンリーは嬉しそうに、ちぎれそうなほどしっぽを振る。そして寝台から飛び降りて人の姿に戻った。
 呆気にとられるメイファンの手を引いて立ち上がらせると思い切り抱きしめる。

「ここで麒麟の姿に戻るわけにはいかないからな。いずれそのうち楽しみにしておこう。だが俺は抱かれるより抱く方が好きだ」
「わかりました。わかりましたから放してください」

 珍しく素直にメイファンを解放したワンリーは、ニコニコと上機嫌で言う。

「食事が済んだらすぐに発つぞ。次のコンシまでは一日かかるからな。しっかり食べておけよ」
「はい」

 身支度を整えてメイファンが朝食を終えると、ふたりはセンダンの町を後にした。